(1)ありのままに伝えよう

偉大な成果を達成できる企業には規律ある思考パターンが見られる、とジム・コリンズは『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』で述べている。そうした企業は意思決定のプロセスのどの時点でも「現実の厳しい事実」を直視する。「自社が置かれている状況の真実を把握しようと真摯に懸命に取り組むこと」から始めれば、「正しい決定はたいてい自ずと見えてくる」とコリンズは言う。ベッド数300床あまり、従業員数2000人弱の病院を持つハモット医療財団の理事長兼CEO、ジョン・T・マローンも、リーダーが率直かつ十分な情報開示に最初から真剣に取り組むことが変革を成功させる最も重要な要因だと指摘する。

ハモットは1990年代半ばに、健全な財務状態を維持しながら世界クラスの医療を提供していくための変革に乗り出した。当初の必要な措置の一つが、約125人で構成されるスタッフの一つの階層を廃止することだった。

これほど大規模なダウンサイジングを行えば、スタートしたばかりの変革を頓挫させることになりかねなかった。しかし、リーダーたちがダウンサイジング構想とその目的を率直に伝え、スタッフや地域社会と対話を続けたことで、悪影響はほぼ完全に回避できた。以来、ハモットはいくつものカテゴリーでアメリカのトップ100病院の一つに数えられるようになった。

十分な情報開示が最も効果を発揮するのは、データや分析や理屈を超えたコミュニケーションが伴うときだ。つまり、人々の感情に訴えることが、変革の推進力につながる。ハーバード・ビジネス・スクールの元教授、ジョン・P・コッターは、組織の大規模な変革に取り組んでいる何百人もの人々へのインタビューから、次のような結論に至った。「変革の取り組みを成功させるには、思考よりも感情に訴えることだ。語ることよりも見せることだ。鮮烈で有無を言わせぬ例を使って、胸の奥を揺さぶるような形で見せるのである」。このような効果は、コッターの言う「see-feel-change(目で見て実感する変革)」がもたらす効果で実現することができる。