人の本質を見極める日本人のセンサー

根本的に話を覆すようですが、私自身は職場で仲間をつくるために動いたことがありません。もちろん、一緒にプロジェクトに携わるのですから、同僚の信頼を得ることも、快適に働けるような気遣いも必要です。「ちゃんと仕事をしているのだから、まわりに多少不快な思いをさせても仕方がない」ということはないのです。これは、ビジネスマンとしてのマナーのようなもの。しかし、「好かれよう」という目的のもとに動いた途端、すべての行動にムリが出ます。簡単に言えば、疲れてしまうのです。頑張って“完璧な自分”を演出し、徐々に“ボロ”を出して落胆されるくらいなら、ストレートに素の自分で勝負したほうがいい。職場での人間関係は、非常に長きにわたるものです。日本人は人の本質を見極めるセンサーが鋭いので、理想的な自分を演出しても、早晩化けの皮がはがれてしまうでしょう。

経験から言って、自分が人間的に他人を惹きつけられるかどうかは、淡々と仕事をこなす過程で見えてくる性格や能力次第。ユーモアのセンスが合うか、尊敬できるスキルがあるか……。周りを見ると、強力なリーダーシップを発揮する優れた人物はみな、他人のことを批判もするし、評価もします。仕事については批判しても、人間的な部分では褒めるなど、バランスがいい。そして、批判したあとに「もっとこうすれば」と建設的な意見を付け加えます。こうすることで、批判も役立つアドバイスに変わるのです。このような堂々とした態度は、自分の専門分野に自信があるからこそできること。反論されても構わない、と思うから発言にもコソコソしたところがないのでしょう。

「お互いに快適に働くための気遣い」は努力次第なので、ビジネスマンならぜひとも実践してください。ただし、“本物の仲間”をつくるための近道はどこにもありません。

東京大学大学院教授 ロバート キャンベル
東京大学大学院教授。テレビではMCやコメンテーターも務める。著書に『ロバート キャンベルの小説家神髄─現代作家6人との対話』など。在日25年以上。
 
(構成=大高志帆)
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