ネジ一本一本手作業でエンジンをつくる

研修で組み付けられるエンジンはカムリやアルファードなどに使われている2AZという型のもの。部品はネジなど細かいものも含めてすべて定位置に納められており、作業を行う室内も整理整頓され、余計なものが雑然と置かれていることがなく、トヨタ式の「5S」(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)が徹底されていることが感じられる。

「これからバランスシャフトベアリングの組み付けを行います」。講師は「要素作業要領書」と呼ばれる作業ごとの説明書をモニターに映し出した。海外の技術者に説明するときもわかりやすいよう、各部品の名前や形状、組み付け方法などがイラスト入りで丁寧に記されたマニュアルを使用する。それぞれのシートには、各作業時間の目安が秒単位で記されている。講師は部品を手に取り、実際に作業をやってみせながら、部品の組み付け方法や作業のポイントを説明。その部品がエンジンの内部でどのような役割をしているのかなど、内部構造についても一つ一つ丁寧に解説していく。

8人が4人ずつ2班に分かれ、エンジンを組み付ける。指示役と作業役に分かれ、正確に工程を説明する難しさも経験する。

研修では、8人の新入社員が2班に分かれ、4人で1つのエンジン組み付けを行う。「では作業を始めてください」と声がかかっても、新人たちの動きは鈍い。「この部品だよね」「何番って書いてある?」などとまごまごしたり、部品がはまらなかったり、ネジを間違えたりと、ぎこちない。時折、部品を落としたり、部品同士をぶつけたりして大きな音を立てている。特にネジ一本一本について、トルクレンチを使って規定範囲内のトルク(ねじりの強さ)で締め付けられているかどうかを測りながら締める作業はなかなか思うようにいかず、苦戦していた。

全員がマーケティングや海外営業、企画、広報など文系の事務職という新入社員たちは、事前にエンジンの構造や組み付けについて学んでいるものの、「正直、話の意味は、半分もわかっていないです」と話す。実際、この研修を一度受けただけで、エンジンの組み付けができるようになることはないだろう。では、この研修を通して、新人たちは、何を学ぶのだろうか。