タックスヘイブンにペーパーカンパニーを立ち上げて、稼いだ利益をそこに送金すれば、利益に対する税金を回避できる。それを世界中で運用してその会社に戻せば、運用益に対する税金も回避できる。これがタックスヘイブンを利用した節税と資産形成の仕組みだ。そうしたペーパーカンパニーの設立をサポートしているのが、モサック・フォンセカのような法律事務所。モサック・フォンセカは世界40カ国以上に現地事務所を置き、500人規模のスタッフを抱えている世界最大の法律事務所の一つだ。中国の主要都市に支店があるのも「そこに需要があるからだろう」と勘ぐらせる。タックスヘイブンに登録したペーパーカンパニーに活動実態はほとんどない。多くの場合、法律事務所が提供する資産管理サービスに則って管理され、その法律事務所とつながりのある金融機関が資産運用を請け負っている。パナマ文書にもクレディ・スイスやUBS、英HSBC、ソシエテ・ジェネラルなど世界トップクラスの金融グループを筆頭に、多数の金融機関の名前が散見する。

タックスヘイブンにペーパーカンパニーをつくること自体は非合法ではない。問題は一旦そこに入った金は足がつかなくなって、誰のものなのか、どこから入ってどこに出ていくのか、外目にはわからなくなることだ。それゆえに不正な資金流用やアングラマネーのロンダリング(資金洗浄)などに使われやすい。実際、パナマ文書に出てくるいくつかの金融機関は当局から脱税やマネーロンダリングの疑いで捜査を受けている。

ロシアのプーチン大統領の名前はパナマ文書にはない。しかし「友人」の名前は複数出てくる。その一人、チェリストで音楽家のセルゲイ・ロルドゥギン氏はタックスヘイブンを利用して20億ドル(約2400億円)の不透明な取引を行ったと報じられている。

「(自らの出身地である)サンクトペテルブルク時代からの古い友人で、稼いだ金をすべて楽器購入に充ててロシアの貧しい音楽家に使わせている奇特な人物」とプーチン大統領は弁明しているが、音楽家が2400億円の取引というのは不自然すぎる。ロシアでは「自分もチェロをやっておけばよかった」などと冷めたショートメッセージで大統領を皮肉っている。恐らくはロルドゥギン氏のような「友人」たちは(本人が知ってか知らずか)、プーチン資金の管理運用に利用されていたのではないか。彼ら名義のペーパーカンパニーの口座にシリア空爆の個人的な見返りがアサド大統領から振り込まれたり、便宜をはかってもらったロシア企業から裏金が振り込まれていても何ら不思議ではない。パナマ文書にはアサド大統領の親族の名前もあるという。