情報をリークした人物は誰なのか

プーチン大統領はパナマ文書絡みの疑惑に対して「ロシアを弱体化させようとする組織的な試み」と反論しているが、見当違いだと思う。そもそもパナマ文書流出の発端は、南ドイツ新聞に漏らされた匿名のリークだ。データが膨大で多国にわたるために、米ワシントンDCにある国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)に持ち込まれ、数百人のジャーナリストが約1年かけて文書の分析を行った。内容に関してはICIJの厳正な管理に基づいて世界同時に随時発表されている。ニューヨークタイムズでもワシントンポストでもなく、フィナンシャルタイムズでもなく、最初の駆け込み先が南ドイツ新聞だったこと、そして接触時のドイツ語のメールのやり取りなどを見ると、リークした人物は同紙が広く読まれている地域(ミュンヘン、シュトゥットガルトなど)で生まれ育ったという推測もできる。

モサック・フォンセカは国外のサーバーからハッキングを受けたとしてパナマの検察当局に被害届を出している。顧客情報の管理を至上命令とする大手法律事務所のシステムを食い破るのだから、同事務所のシステムを構築した出入り業者など、内部に近い人間が関与している可能性は高い。私は米政府の情報収集の悪辣な手口を告発したエドワード・スノーデン氏のようなシステム屋をイメージする。金銭目的や組織的陰謀というより、抜き出した情報に驚いて、「涼しい顔をした世界のリーダーや金持ちがタックスヘイブンで何をやっているのか。世界の人々はこの情報を共有すべきだ」という義憤に駆られた行動のように思える。

国民国家という制度を蝕む恐ろしい病原体

パナマ文書の完全版が5月上旬に公開された。文書に名前が見つかった企業や個人に対する関心は引き続き高く、スキャンダラスな報道やつるし上げるような騒ぎもしばらくは続くだろう。多くの日本の企業名も取り沙汰されているが、日本企業の場合は課税逃れや資産隠しが目的というより、海外での取引慣行からタックスヘイブンを活用しているケースが多いと思われる。

よい方向の影響としては、各国が協調してタックスヘイブン対策を講じる動きが今後出てくるかもしれない。たとえば国ごとに法人税率や所得税率が違いすぎることがタックスヘイブンの利用を促しているとすれば、各国の税率をなるべく一致させていく考え方もある。ペーパーカンパニーの実質的所有者を公表することを義務づけたり、国際的に合意できることは多いはずだ。法人に対しては事業を行っている国でまっとうな税金を納めさせる仕掛けをつくるなどの租税回避への対策も重要だ。それが無理なら、タックスヘイブンの国や地域でも資産税のような形でペーパーカンパニーから税金を取るようにさせて、税収の半分程度を本来税金が納められるべき国に返還させるような(外形標準課税に近い)手もある。犯罪組織や独裁政治家の資金隠しやマネーロンダリングに利用させないためにも、誰の金がどこにどれだけあるのか、情報を開示させて透明性を高めることが大前提だ。