【田原】たとえば京大の山中伸弥先生のiPS細胞のような研究と高橋さんの研究が組み合わさると、将来、病気にならないような体質に変えることは可能ですか。

【高橋】いずれはできるようになると思います。実際に昨年イギリスで、世界で初めて白血病の子供の遺伝子を変えることで治療に成功した例があります。すでにそうした例があるので、今後はどんどん応用できるようになっていくはずです。

【田原】そうすると、人間はどんどん長生きになるね。とてもいいことだけど、危険性はないのですか。

【高橋】危険性はあります。たとえばある遺伝子の配列を変えたときに、連鎖する別の場所まで意図せず変わってしまって、新しい副作用が出るかもしれません。そういったリスクはまだよく分かっていないのです。

【田原】ある病気は遺伝子操作で防げるけど、それによって別の病気になるかもしれないと。

【高橋】そうですね。だから最初は、ここを変えないと死んでしまうという限られた場合しか活用されないんじゃないでしょうか。

【田原】キャラクターはどうですか。研究が進めば、悲観的な人を楽観的に変えられたりしますか。

【高橋】うーん、技術的には将来可能になるかもしれませんが、たぶん倫理的にはNGでしょうね。生命の目的は、個として生き延びて種として繁栄すること。多様性が失われてしまうと、環境が変わったときに対応できずに絶滅するおそれがあります。そう考えると、キャラクターもいろいろあったほうがいいわけですから。

【田原】なるほど。遺伝子操作でみんな明るくなったり、頭がよくなればいいという単純な話じゃないのか。

【高橋】頭がいいからといって種を残せるかというと、また別の話ですよね。頭がいい人のほうが豊かな生活をしやすいかもしれませんが、実際には高学歴な女性のほうが結婚していない、子供をつくっていないという現実もあります。

【田原】プライベートなことをきいて申し訳ない。高橋さんは、ご結婚されていますか。

【高橋】結婚してないです。高学歴であることが生命にとって本当に重要であるなら、私ももっとモテるはずなのですが、そうなっていない(笑)。だから生命にとって何が最適なのかは、一概に決められません。そう考えると、医療以外の目的で遺伝子をいじるというのは、かなり難しいと思います。