資産課税導入で富裕層にお金を使わせる

人生最期の瞬間に「自分の人生は幸せだった」と思えるかどうかに、学歴や勤め先はあまり関係ない。本当に大事なのは人生最後の15年をどう過ごしたか、だ。私は自分の学校でそう指導をしているが、国もそこをもっと強調すべきだと思う。充実した老後の素晴らしさを提案し国のサポートを国民に約束して、それでもなお、1700兆円の個人金融資産がマーケットに出てこないようなら、強制的に資産課税を導入すべきだろう。資産税では資産を持っているほど課税されるから、要らないお金は使おうというインセンティブが働く。

税制に関する私の考え方は昔から変わっていない。道州制のような新しい統治機構ができたタイミングで税制改革を行って、資産税と付加価値税の2本立てにするのだ。

資産税についていえば、国民の固定資産と金融資産を足し合わせて3500兆円ある。法人部門の固定資産や内部留保などを全部足すと1500兆円。合わせて5000兆円。これに1%課税すれば税収は50兆円。一方の付加価値税は軽減税率のような面倒なことはやめて一律10%とすると、GDPの10%で50兆円。資産税の50兆円と付加価値税の50兆円を合わせれば100兆円。政策に必要な経費(予算)を70兆円前後確保したうえで、毎年20兆~30兆円ぐらいの借金を返していける。そうやって返済の意思を明確に示せば、市場も安心し国債の暴落は起きない。

資産税のメリットの一つは相続に対する中立性だ。資産を相続した人が毎年1%ずつ払っていけばいいのだから、相続税を払う必要はない。今の日本社会で家族関係を歪ませている最大の原因は相続だが、資産税にすることで相当に解消できるのではないかと思う。

また資産税と付加価値税を導入すれば、所得税も法人税も必要なくなる。所得が増えた人は大いに消費してもらうのが一番だが、そうしなければ資産が増えるわけだから、資産税で十分に捕捉できる。法人が生み出した付加価値は、売価から仕入れコストを引いた数字できっちり出るから、それに一律10%を課税すれば終わり。

前述のように資産税と付加価値税で必要な税収は確保できるから、複雑で不平等な税体系は一切不要。不動産取得税、自動車重量税、ガソリン税、タバコ税、入湯税、ゴルフ場利用税その他、意味不明な税金はすべて廃止できるのだ。成長期には給与も法人所得も伸びるが日本は20年以上にわたって伸びていない。しかし、個人資産は伸び続けている。だから成熟期には資産課税が有効で、課税されるのがいやなら資産を消費にまわす。政策担当者はアベノミクスの機能しない原因をここに求め、税制の抜本改革に一刻も早く取りかかるべきだ。

(小川 剛=構成 AFLO=写真)
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