文化が違う、と意識したほうが働きやすい

【ファーウェイ】欧米だと外見からして違うので、違う文化的背景を持つ人たちと意識して話しますが、中国の人は私たちと見た目は変わらない外見ですよね。その分、余計に違うことを意識しないといけないときがあると実感しました。

――はっきり意見を言えるようになったり、周りの人をうまく使えるようになるまで、苦労があった?

【アリババ】勇気を出さないといけない、と思いました。相手の面子をつぶすようなことを言ってしまうとまた喧嘩になるので、相手を立てつつ、私たち同じチームだよね? と言って意見を伝えるとうまくいくことが多いです。何か本を読んで参考にしたとかではなく、すべて現場で仕事をしながら学びました。

あと、 ふところに入ると暖かい人たちです。欧米の企業は公私をきっちり分けるイメージですが、中国企業は公私が混沌と一体化している。仕事の話もプライベートの話も同じチャットでやりとりしていますね。

阿里巴巴(アリババ)はオンライン取引のプラットフォームや決済サービスを提供する企業。BtoBマッチングサイトの「Alibaba.com」のほか、消費者向けにオンラインショッピングモール「天猫(Tmall)」「タオバオマーケットプレイス」を提供。後者2つで中国EC市場の約80%という高いシェアを誇る。グループの本社は中国浙江省杭州市にあり、社員数は全世界で約3万5000人。日本ではソフトバンクグループとの合弁で設立されたアリババ株式会社として展開。社員数は約70人。
――意思疎通は? 日本は会社が終わった後の飲み会、ノミニケーションが重要だなどと言われるが。

【アリババ】飲み会が必須、ということはないです。

【バイドゥ】でも、食事はよく行く。円卓を囲んで……これは大事。社員旅行もよく行っている。

【ファーウェイ】社員旅行は多いですね。そのあたりは一昔前の日本の会社と似ているのかも。

――辞めたいと思ったことは?

【アリババ】特に中国の会社だからという理由で辞めたいと思ったことはない。

【バイドゥ】働いていて自分のプライドを傷つけられたことはないし、いやな思いもあまりありません。辛いと思うのはむしろ、中国企業だからという外で感じる偏見ですね……。

【アリババ】カントリーリスクは感じます。ビジネスの世界と関係ないところで、たとえば尖閣問題などの話が勃発すると一気に仕事が滞る。

――2010年の尖閣諸島衝突事件のときは?

【アリババ】政治的には対立があったかもしれませんが、ではその頃(アリババグループが運営する)タオバオなどで日本の商品が売れなくなったかというと、そんなことはなかった。とはいえ、中国は何かと変化が激しい。自分たちとは違うところで振り回されるというか……。分かってはいるが、どうしようもない部分ですね。

【ファーウェイ】私の場合、入社数カ月後に2012年の反日デモが起きました。そうした中、本社でのメディアツアーに日本から記者の方をお招きしました。前から予定していたものだったのです。市の中心部ではデモが続いていました、そこから離れた社内はいつも通りで「こんなときによく中国まで来てくださいました」と本社の経営陣も喜んでいました。われわれは幸い、日本でビジネスをする上で影響もありませんでした。でも、中国に対してよくないイメージが日本に残ったかなという気はします。中国の企業に転職すると言うと、大丈夫?と心配されることもありました。両親には、“大丈夫、前の会社より売上も大きい”と答えましたけど。

【アリババ】なかなか理解してもらえないですね。中国企業というだけでなんとなくうさんくさいと思われて……。漠然とした偏見があるのを感じます。

【バイドゥ】バイドゥはコンシューマー向けと法人向けビジネスがありますが、コンシューマー向けビジネスでは何かと「中国企業だから……」とユーザーにSNS上で言われます。今日のように中国企業の広報が集まると、「中国に対する偏見をどうしたらいいんだろう?」という話をよくしています。

【アリババ】これは、同じ広報でも国内企業だとなかなか共有できない悩みだと思う。そうはいっても、最近は中国を避けるのではなくどうやって向き合うかという方向に日本も変わってきていると感じます。もっといろんな情報を発信していけたらと思っています。

――いまの悩みは、社内よりも中国企業への偏見とか対外的なこと?

【バイドゥ】そうですね。他社からの反応を見たときに、「そうだ私が勤めている会社は中国企業だったんだ」と改めて思います。

【アリババ】私の場合は社内でも悩みがあるかな。本社のメンバーにとって日本はあくまで一市場にすぎないので、リクエストを伝えても応えてもらえないことがあります。日本だったら当たり前と思うことでも、彼らはそうは思ってくれません。ただ、合理的な説明ができれば「いいね!」と取り入れてくれることもあるので、コミュニケーションがとても重要だと実感しています。分かってもらえたときの相乗効果はすごくあります。

――今後の目標は。

【アリババ】日本では、アリババグループが運営しているオンラインショッピングモールやBtoBマッチングサイトへ、日本の企業に出店してもらう活動を行っています。ですが、日本の企業は中国に興味はあってもまだ踏み切れないところが多い。参加企業の数をもっと増やしていきたい。

中国の人は日本の商品を欲しがっています。それが爆買いにつながっているわけですが、日本の企業はまださまざまなリスクを心配して躊躇していることが多いようです。リスクは気にしつつも、積極的にチャレンジしてほしい。日本の人口の14倍と、市場はとても大きいのですから。

プライベートでは、2020年の東京オリンピックで中国の人に日本の文化や商品を知ってもらうイベントなど、架け橋となるようなことをしたい。日本酒が好きなので日本酒を広げたいなとも思っています。

【バイドゥ】仕事上の目標としては、バイドゥ社員30人全員が広報のような動きをしてもらいたいと思っています。会社のみんなが仕事好きで、誇りを持っているので、いい形で彼ら自身から情報発信ができるようになると、イメージも変わるかなと期待しています。ソーシャルメディアかもしれないし、いろんな場に出たときにそんな風に話をしてほしい。そういうセミナーを社内でやることもあります。広報能力をみんなに植え付けるというのが直近の目標ですね。

また、さまざまな企業が中国語対応などを考えていると思うので、手助けができるようなことが会社でできれば。個人では、英語ができるので東京オリンピックでボランティアもいいかな。

【アリババ】文化を知っているというのは大きいですよね。中国人が喜びそうなところを知っている。ツボが分かる……。

【ファーウェイ】ファーウェイに入社して、国際関係にビジネスが左右されることがあるということを実感しました。日本の人の中国や中国以外の国に対する見方が、偏見なく普通になってくるといいなと思っています。10年、20年かかるかもしれませんが……。

ファーウェイ日本法人の経営陣が、今年入った新入社員に「すべてのことにオープンに」と話していました。自分と異なる価値観を否定するのではなく、とりあえず耳を傾けて理解してみようということが、個人、会社、そして社会の発展に大切だと実感しています。長期的にそういう風になったらいいなと、そういう変化に、広報として関わっていきたいです。

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