▼どんなときも変わらない視点とは

【鈴木】私の場合、常に「お客様の立場で」考え、どうするのが正しいのか、その一点で判断します。私はお話ししたように、流通の仕事がやりたくて、この道に進んだわけではありません。販売や仕入れの経験もありません。

【稲盛】それが今、流通のど真ん中で指揮をしておられる。

【鈴木】それが可能なのは、私自身、客の1人であるからです。お客様を中心にして、お客様が満足するとはどういうことか、それだけを考えるからです。

【稲盛】私もよく、スーパーへ家内にくっついていって買い物をします。作務衣の上下に雪駄履き、登山帽をまぶかにかぶって出かけるんです。家内の後ろからカートを押しながら、あれ買え、これ買えと回るのが大変楽しくて。

【鈴木】稲盛さんでさえ、仕事から離れれば、1人のお客になる。お客の心理は誰もが持っているのです。セブン-イレブンでは毎昼、役員がファストフード類の開発中の新製品の試食をしますが、私は食通でもなんでもなく、1人の客として、おいしいかおいしくないかを判断します。けっして妥協しません。冷やし中華について、11回NGを出したこともあります。

日曜日の昼も、家の近くのセブン-イレブンで購入した弁当類を妻と試食します。息子が2人いますが、「子どものころ、日曜日になると、親父がご馳走だといってセブン-イレブンの弁当をよく食べさせられた」と今もよくいわれます。

家で食べても、おいしくなかったら、日曜日でも会社に電話をして、全国の約1万8000店舗から、その商品を即座に撤去させます。

ありがちなのは、お客のときは不満があっても、仕事となると会社の都合で考えてしまうことです。どんなときも変わらない視点を持てば、悩んだり、迷ったりせず、判断できるのです。

【稲盛】私は、盛和塾という、主に中小企業の若手経営者のための経営塾で指導にあたっていますが、そこで話すのも、人間として何が正しいのかで判断するという基本です。なかには、いい学校を出て、苦労もせず、会社経営を安易に考えて後を継いだ人もいます。

うれしいのは、「もし、盛和塾で話を聞いて経営で実践していなかったら、うちの会社はなかったでしょう」と話す会員が少なくないことです。

思念が業をつくる。自分が本当に正しいと思う判断を行い、持てる能力を発揮し、常に情熱を傾ける。それが人生を成功に導く王道だと思います。

(勝見 明=取材・構成 本浪隆弘=撮影 京セラ、セブン&アイ・ホールディングス=写真提供)
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