▼楽観的に構想し、悲観的に計画する

【稲盛】私もJALの再建のときは、大義を感じて打ち込みましたが、成功するか、しないかといったことは、まったく考えませんでした。社員の大量解雇も始まり、給料もボーナスも減らされ、打ちひしがれている社員の気持ちを、なんとかモチベートしよう。みんながそれぞれの職場で頑張ってくれれば、再建できると思っていました。

2001年5月、アイワイバンク銀行(現・セブン銀行)のATMサービス開始のセレモニー時にテープカットをする写真。一番右が鈴木敏文氏。68歳。

【鈴木】米国でセブン-イレブンを創業し、世界のセブン-イレブンのライセンサーであったサウスランド社が経営破綻し、再建に乗り出したときも、自分が1つの信念を持ち、それを相手にぶつけていけば、自ずと道は開けると思っていました。アメリカ人は流通では一番進んでいるという自負心を持っていた分、逆に時代の変化に対応できなかった。

そこで、自前の物流センターに大量に仕入れ保管した商品を店舗に流す方式をすべて変えました。物流センターは売却し、各店舗が自分たちで発注し、単品管理を実行する。猛反発されましたが、説得を重ね、3年目には黒字転換しました。

【稲盛】私がよくいうのは、「楽観的に構想し、悲観的に計画せよ」と。計画するときには慎重に進めなければなりませんが、考えるときには楽観的に発想する。楽観的でないと、せばまったことしか思いつかなくなります。

【鈴木】悲観的に考えたら行き詰まってしまう。あとは、信念を持って、真剣に取り組めば、どんな困難もなんとかなるということですね。

【稲盛】私も以前、こんな試練がありました。京セラが認可を受けて発売したセラミック製人工股関節が好評で、次に人工膝関節を開発しました。ただ、こちらは「早く使いたい」という医師の強い要望もあり、結果的に認可を受ける前に販売する形になってしまった。このことについてマスコミから非難を受けたんです。私としては不本意なところもあり、大変悩んでいました。

そのとき、懇意にしていただいていた、京都にある臨済宗妙心寺派の円福寺のご老師に相談したら、「災難にあうのは、過去に積んだ業がすべて現れた証拠で、その程度の災難で業が消えるのだから、逆に喜ばなければならない」と話されるんです。そういうふうに考えれば、どんな困難でも耐えていけるのだと思いました。