置かれた場所で必要な人材になる

ただ、実をいうと東京支社転勤の話が来たときには、渋々したがった。東京は苦手な場所で、大阪弁が通じにくい。「チャウ(違う)」「もういのか(もう帰ろうか)」などと言うと怪訝な顔をされるし苦手だった。しかも支社の役員2人と反りが合わなかった。陰湿な嫌がらせも何度か受けたし、私は家に帰って布団をかぶり、悔し涙を流したこともあった。

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人事異動の希望は通るのか

東京勤務の3年は精神的にきつかった。それでも「貴重な反面教師と出会えた。自分は絶対同じことをしない」と心に刻んだ。導火線が短く、すぐに爆発していた私が忍耐を学ぶ機会を与えられたと思うように努めた。会社勤めは自分のやりやすいところ、行きたいところへ行けるわけではない。マイナスをプラスに転換できる独特の考え方を持っていたからやってこれたとも思う。

自分をアピールして上に認められるためには、なにしろ一生懸命に仕事をする。実績を挙げるしかない。営業職はある程度数字という形で結果が出るが、それ以外の部門ではその部署で、なくてはならない人間になることだ。気に入らない異動だからといって、淡々と仕事をしていたのでは将来の展望は拓けない。今の部署に不満を持ち、仕事に身が入らないようであれば、本末転倒だ。置かれた場所で頑張るしかない。

自分に合うとか合わないというのはやってみないとわからない。ろくすっぽやることをやらずに成果も挙げないで、理屈ばっかり言ってる人間は相手にしないようにすることだ。自分自身の考えをしっかりと持っているかどうかだ。人事は行うほうも「人事を処するには太陽の如く」を心がけるべきである。

大和ハウス工業 会長・CEO 樋口武男(ひぐち・たけお)
1938年、兵庫県生まれ。関西学院大学法学部卒。63年、大和ハウス工業に入社。93年にグループ会社の大和団地社長。2001年、大和ハウス工業社長。04年より現職。著書に『熱湯経営』『凡事を極める─私の履歴書』などがある。
(吉田茂人=構成 熊谷武二=撮影)
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