1.広報(外へ向けての役割)

外へ向けての会社史の役割とは、重要な広報の手段となることである。直接市場と向き合う企業の場合には、会社史に書かれている商品情報自体が市場での取引にとって重要な意味をもつ。しかし、広報の手段としての会社史の意味は、それだけにはとどまらない。

IR(インヴェスター・リレーションズ)の観点からすると、資本・金融市場に与える会社史の影響力は、けっして小さなものではない。つまり、ROE(株主資本利益率)やROA(総資本利益率)などの短期的な財務データには表れない企業の本当の力を、読者は会社史を通じて知ることができる。企業の実力について投資家は、いかなる経営環境のもとにおかれているか、トップマネジメントの戦略はどのようなものか、根づいている企業文化はいかなるものかなど、会社史が発信する諸情報をふまえ総合的に判断してはじめて知ることができるのである。

少子化が進む21世紀の日本では、限られた人的資源のなかから優秀な人材を確保することが、企業の発展にとって第一義的な課題となる。最近では、インターネットを通じて就職活動を行うことが一般的になっているが、熱心な就職希望者は、受けようとする企業について徹底的に知ろうとして、ホームページなどには記載されていない濃密な情報を求めている。労働市場への情報発信という意味でも、会社史は有効な広報手段なのである。

技術者の市場に関しても、その企業が技術を大事にしているか、技術者に活躍する場を与えているかなどの情報は、会社史を読むと一目瞭然となる。ステークホルダー(株主、従業員、顧客、取引先、地域住民等)との関係についても、同じことがいえる。さらに会社史による情報発信はステークホルダーに対してだけでなく、関係する第三者機関、中央・地方の官庁やNPO(非営利組織)等、最終的にはライバル企業に対しても重要な広報の意味をもつ。