2.ストーリー

良い会社史の第二の要件は、ストーリー性をもつことである。

真実を述べることとストーリー性があることとは矛盾するように見えるが、そうではない。そもそも、100年間を1年、場合によっては1時間で語るのが歴史である。100年の事実のなかで何がポイントで全体としてはどのような流れなのか。無数の事実のなかから重要な事実のみを選択し、それらに筋道をつけること。すなわちストーリー性をもたせる作業を行わない限り歴史は成り立たない。「歴史」を意味する英語HISTORYを分解すれば「ハイ・ストーリー」となるのである。

会社史にストーリー性が求められることとの関連で気になるのは、多くの会社史の文章が受け身形で書かれている点である。これは日本的な謙譲の精神の反映かもしれないが、本来、受動態でストーリーを語ることはできない。当社ないし当社の経営者はこのように行動してこのような結果を得たのだと主体的に記述するのが、ストーリーを語るうえでの基本である。従って会社史は能動態で書かれるべきであり、企業が経営環境に対してどのように働きかけ、それをどう変えたかが、会社史の中心的な記述内容となる。

また、会社史では、結果だけではなくプロセスを書くことも重要である。結果だけならば財務諸表等を見ればよいわけで、なぜそういう財務諸表が生まれたか、その過程で企業が直面した問題は何だったか、それに対して担当者はどう対処したか、その結果最終的にどのような帰結がもたらされたか、などを知ることができる点が、会社史のレーゾンデートル(存在価値)である。そして、そうであるからこそ会社史は、「ここでがんばったから今日のわが社がある」とか、「ここで勝負に出たからよかった」とか、逆に、「ここでこういう失敗をしてしまったので結局何十年も回り道をしなければならなかった」とかいう、ストーリーを伝承することができる。正確な記録にもとづいて的確なストーリーを伝承することも、良い会社史が備えるべき重要な条件の一つなのである。