決算書は敷居が高いというビジネスマンも、ここだけ見れば企業の業績がわかるエッセンスを紹介。

決算書を読みこなす能力は、語学力を含めたコミュニケーション能力や営業力、問題解決能力などと同じように、ビジネスマンとしての武器になる。ある程度読めるようになれば、「会社の体力」や「儲けの仕組み」、さらには「経営姿勢」「倒産の危険シグナル」といったことも一目で知ることができるようになってくる。

そればかりか、「販売代金の回収状態」や「ツケの実態」といった細々とした状況を察知することも可能だ。

さらに深読みすれば、同業他社に比べて粗利益率が高い決算書からは、仕入れ先との交渉で努力している様子や、在庫の不良品化や陳腐化の一掃に向けて経営トップ以下全社員が一丸となっている姿が想像できるものだ。仮払金や立替金といった勘定科目が目立つ決算書は、「金銭にルーズな会社」と判断していいし、売り上げ規模のわりに事務所家賃や取締役報酬が高額で、広告宣伝費や交際費、交通費の使用も多ければ、「派手で見栄っ張り企業」と見てさしつかえない。

さて、てっとり早く決算書から偽装などの危険シグナルを見抜くポイントを表にまとめた。

【A商事の3期決算】
実際には粉飾決算を見破るのは容易ではないし、上場企業の場合は監査法人による監査があるために基本的にはありえないが、中小企業の場合はまったくありえないことではない。架空の「A商事」の決算書から、チェックしたい主要な勘定科目を拾って表にしてみた。

▼4つのチェックポイント

(1)CF計算書の営業活動CFとPLの各種利益をチェック
企業経営の要ともいうべき営業活動CFが出金超(△)が続いているのに、当期純利益が出ているのは不自然。企業規模にもよるが、粉飾をしている場合、ギリギリの利益を出して税金負担を最小限にする傾向が強いものだ。A商事も売上高が下降傾向にあり、営業活動C Fが3期連続で「△」にもかかわらず、当期純利益は黒字になっている。異変が感じ取れる。

(2)売上高と売掛金をチェック
売上高が年々減少しているにもかかわらず、売掛金が増加するのは不自然。売上高を水増ししている可能性が高い。

(3)粗利益率と期末在庫をチェック
A商事のように「売り上げ減・粗利益率アップ」は要注意である。一般的に、売上高が下降傾向にあるときは、粗利益率も下降するものだ。仕入れ量が減少すると、仕入れ先は単価を高めにして卸すためである。売り上げ減少なのに期末在庫が増加しているようなら不良在庫が発生しているか、もしくは在庫の水増しの疑いがあると見ていい。

(4)仮払金、貸付金、立替金、前払費用をチェック
仮払金や貸付金、立替金、前払費用はBSにおける資産科目だが、利益偽装に使われることが多い科目だ。例えば、仮払金を支払ったことにすると、その分だけ同じ資産の部に計上される現金が減るだけで、BSの「資産の部」そのものの総額に変化はないので曲者だ。A商事の場合も、12期において突如、仮払金を計上しているが、実際には取引先への支払いなどに回っている可能性が高いと疑われる。要チェックである。

A商事の決算書を分析すると、結論として、以下2点の疑いが濃厚である。

・架空の売上高を計上していることで、売掛金が水増しされているのではないか。
・在庫を水増しし、粗利益を高く見せているのではないか。

粗利益を求める計算式は、「粗利益=売上高-(期首在庫高+期中仕入高-期末在庫高)」である。ごく単純にいえば、期末在庫高を多くすれば、粗利益が増えることになる。

売掛金や期末在庫が増えれば利益も増す。ごくごく単純な例で示したが、架空売掛金や架空期末在庫の計上は、粉飾決算の代表的な手法である。

(池田陽介(税理士・池田総合会計事務所所長)=監修)
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