「非連続」の戦略で世界一を目指す

JTを世界3位に押し上げたM&Aとグローバル化も、社員たちに「非不能也」を自覚させた成果だ。助走が始まったのは、冒頭の種子島での自販機の実証実験に入り、たばこの事業企画室長になった04年。前号で触れた大合理化と事業の絞り込みを鮮明にした中期経営計画「PLAN-V」の実践で、事業収支や財務の手当てで残る現金の累積が進み、自己資本利益率(ROE)も目標の7%が達成できる見通しとなっていた。「次は攻めだ」と判断する。

06年暮れ、英ギャラハーと買収手続きを始めることで合意したと発表、40代が終わる4カ月前だった。買収額は約1兆7310億円、引き継ぐ有利子負債を加えると約2兆2530億円に達し、99年に買収した米RJRナビスコの海外事業の2倍以上の規模。日本企業で最大の買収となる。

ギャラハーは「ベンソン・アンド・ヘッジス」など有力銘柄を持ち、欧州やロシアで強く、地域的な補完となる。たばこの販売数量は世界5位で、3位のJTとの合計は年間5870億本。首位とは離れていたが、2位との差は1億本を切る。交渉には参加しなかったが、本社で指揮を執り続けた。

RJRナビスコのときと比べ、社内もすんなり受け入れた。「非不能也」との意識が、かなり浸透したのだろう。90年代には不足していた海外要員も、経験を積んできたミドル層に買収後に残る外国人を加えれば、「自分たちで経営ができる」と言い切れるまでになっていた。この買収で、売上高の海外比率が5割を超える。グローバル企業へ、大きく飛翔した。

社長になって、口にする言葉がある。「世界一になりたい」だ。グローバル化が順調に進み、現実味が出てきたので、言い始めた。

海外には、アジアやアフリカなど成長が期待できる市場がある。喫煙人口の減少で厳しいとされる国内でも、火を使わず電気的に加熱し、煙ではなく蒸気で吸う新型たばこなど、開拓の余地はある。本数で世界一を目指すのか、利益でかは、言わない。言うと、社員たちはそちらにだけ向かってしまうから、ただ「世界一」。

これも「非不能也」の教えで、挑戦は続く。ただ、戦略とは捨てること、「非連続」にすることだという点までは、まだ浸透していない。最後は社長が決断することだが、全社で次の「非連続」ができれば、世界一にも手が届く。

日本たばこ産業社長 小泉光臣(こいずみ・みつおみ)
1957年、神奈川県生まれ。81年東京大学経済学部卒業、日本専売公社(現・日本たばこ産業〈JT〉)入社。2001年経営企画部長、03年執行役員、04年たばこ事業企画室長、06年常務、07年取締役常務、09年代表取締役副社長。12年より現職。
(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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