修士卒が就職に有利は幻想にすぎない

就職戦線で圧倒的に有利なのは理系の学生です。なぜなら文系は事務系にしか応募できませんが、理系は事務・技術系の両方に応募できる上に、とくに製造業の技術系採用枠は文系の2~4倍と門戸が広いからです。

ただ、理系は大学院の修士卒でなければ就職が難しいと考えている学生や親が多くいます。しかし、それは大変な誤解です。多くの企業は大学院卒よりもむしろ学部卒の学生に応募してほしいと期待しています。

『人事部はここを見ている!』溝上憲文著(プレジデント社刊)

たとえばキヤノンもそうです。同社の採用担当者は「修士卒の応募者が多いために結果的に合格者も多いのですが、社内では学部卒が欲しいという声もあります。逆に修士に進むことで本人の志向が絞られてしまう。できるだけ学部卒の学生も応募してほしい」と言います。

同様にソニーの担当者も「院卒、学部卒であっても担う仕事は一緒です。むしろ商品化していく技術分野ではより若い人が向いている仕事もある」と言います。もちろん一部の特殊な研究部門では修士・博士課程も何人か必要です。しかし大半の理系出身者は技術部門を経て、営業、管理系など様々な部門に異動するのが一般的です。むしろ特定の分野に頭が凝り固まった修士卒より、純粋かつ柔軟な頭の持つ学部卒がほしいというのが本音なのです。

修士卒が就職に有利というのは幻想にすぎません。でもなぜ理系学生は大学院に進学しようとするのでしょうか。別の大手電機メーカーの採用担当者は「大学に長くいてくれれば授業料も入りますし、経営的にも助かる。だから進学を煽っているのではないか」と推測します。確かに大学の理系学部に入れば、6年間の授業料収入を前提に中・長期の経営見通しを立てられるというメリットがあります。

私立大学の理系大学院の初年度の学費は80万~180万円。2年で200万円超もかかります。それに対して、修士卒の初任給は学部卒に比べて平均で2万円高いだけです。学部卒より2歳年上なので、そう決めているだけで給与体系はまったく一緒です。どっちが得か一目瞭然です。

※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。

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