リストラ候補者に上司からの戦力外通告

「上司からリストラ候補者に“戦力外通告”をするのですが、たまに言い方を間違えて部下をキレさせる上司がいます。修復不能どころか、弁護士を巻き込んで騒ぎ出す社員もいます。このケースは最悪の事態に陥りました」

こう語るのは大手重電会社の人事部長です。同社は希望退職募集を前に事業部長を対象に“リストラ面談”の研修を実施します。ところが、実際の面談でリストラ対象の部長のA(51)が逆上し「あんたみたいな無能な上司にそんなことを言われる義理はない」と叫び、上司の事業部長も逆ギレ。怒ったAは弁護士に相談し、退職強要を理由に慰謝料を求める内容証明付き郵便を会社に送りつけてきたのです。

『人事部はここを見ている!』溝上憲文著(プレジデント社刊)

「Aと上司とはもともとソリが合わず、そんな上司に面談をさせたこちらも迂闊でした。結局、辞めろ、辞めないという罵りあいになり、Aに言質をとられたのです。Aは唯我独尊タイプで部長昇進後に態度がガラリと変わり、自分の意見に逆らう部下を徹底的に叱りつけるなど人望はありません。彼の妻の父は官庁の元事務次官です。Aも人一倍プライドが高い男ですから、人事部が収拾にあたることにしました」

人事部長は司法界の重鎮の顧問弁護士と相談。弁護士は慰謝料ではなく退職加算金を増やすことを条件に相手の弁護士を説得することを確約してくれました。

しかし、相手の弁護士は了承したがAが承諾しません。顧問弁護士の力でAの弁護士は代理人を下りたのですが、Aは今度は個人加入の労組に入り、会社に団体交渉を要求してきました。

「結局、Aは面談の時点で辞めるつもりだったのです。上司や会社に腹いせのつもりで一矢報いたいと思ったのでしょう。法的に団交を拒否することはできないのでこちらも弱り切っていたところ、顧問弁護士からある情報がもたらされました」

妻の父の紹介でAが公益法人に再就職するという情報でした。人事部長は団交前にAと2人で会い、「いいんですか。立派な就職先が決まっているというのに、会社の前であなたを支援する赤旗が並んでいるというのは」と告げたそうです。

後日、Aは希望退職募集に応募してきました。もちろん、その前に団交中止の連絡が入っていました。

※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。

【関連記事】
経営者はどうした? 「リストラ執行人」の出処進退
懲戒処分され「依願退職」で闇に葬られる人の裏事情
なぜ企業は社員を簡単に「クビ」にしたがるのか
リストラ対象は、なぜ「45歳以上、管理職、中高年スタッフ職」なのか
「ナショナル社員」と「グローバル社員」、リストラ候補はどっちだ?