社員の医療費低減で900万ドル節約できた例も
私が取材した企業で特に感銘を受けたのは保険大手のエトナです。CEOのマーク・ベルトリーニはスキー事故で九死に一生を得ました。いかなる治療でも痛みは取れませんでしたが、ヨガと瞑想を試したら、何とか痛みをコントロールできたそうなのです。そこで、従業員にも効果があるはずだと確信し、マインドフルネスを試験的プログラムとして始めました。
1年後、その成果を測定すると、自己申告のストレスレベルも下がり、心拍変動、コルチゾール(ストレスによって分泌されるホルモン)値などの生体測定でもストレスレベルが下がっていることが明らかになりました。
また、経営の観点からもポジティブな結果が出ました。従業員1人あたりの医療費が著しく下がったのです。マインドフルネスを実践することで、1年後の調査で900万ドルの医療費を節約できたのです。
最近は医学界や法曹界にもマインドフルネスが広がりを見せ、全米のロースクールでマインドフルネスのコースの設置が急増しています。30年間サンフランシスコで弁護士をしているジュディ・コーエンは、ウォリア・ワンというマインドフルネスの会社を立ち上げ、その顧客にはフェイスブックの弁護士チームも含まれています。「ウォール・ストリート・ジャーナル」によると、かつて弁護士たちは何が何でも勝訴するしか念頭にありませんでしたが、マインドフルネス・ムーヴメントが始まってからはそういう風潮は過ぎ去ったそうです。
私が働く「ニューヨーク・タイムズ」でも瞑想の専門家を招待し、マインドフルネスについての勉強会を行っています。アメリカのマインドフル革命はもはや絶頂に達していると言っても過言ではないでしょう。
(構成・撮影=大野和基)