「(困った時)助けてくれる人いる?」とヤクザは問う
作品に、元ペンキ職人の組員が登場する。
まじめに働いていたが、お金を持ち逃げされ途方に暮れた。そこへ現在の「親分」が現れ、救ってくれた。その恩義で今、忠誠を尽くしているというのだ。
いわば成り行きでヤクザの世界に入ったこの元ペンキ職人は、土方さんに問いかける。
「(本当に困った時に、世の中に)助けてくれる人っています?」
前出・阿武野さんは語る。
「助けてくれる人が身近にいるか? との問いかけに、すぐ『いる』と心の中で答えられる人はきっとヤクザにはならないでしょう。でも『いない』『わからない』と思った人はヤクザになる可能性もあるのではないでしょうか」
社会の異物であるヤクザを徹底排除せよ。
映画を見る前は、その考えは絶対正義に見えた。違法行為や迷惑行為に泣かされる人は少なくない。ただし、映画を見ると不思議と、不慮の出来事や、何らかの原因でドロップアウトしヤクザになった人々の人権を奪ってまで排除することは正しいのかどうかわからなくなる。
私たちはカタギの世界の住人だが、そこは不安定な雇用形態と収入、希薄な人間関係……。現代人が「向こう側」へ転げ落ちる可能性は決して小さくないと感じたのだ。
(映画『ヤクザと憲法』=写真)