「拳銃はないんですか?」「覚せい剤ですか?」

土方さんは、“完全アウェー”のピーンと張りつめた空気の組事務所内で平然と質問を繰り出していく。

「拳銃はないんですか?」
「置いとけないじゃないですか」
「置いとけないんですか?」
「日本の法律で決まっているじゃないですか。銃刀法」
「いざっていうときはどうするんですか? 他の組が攻めてきたり……」


『ヤクザと憲法』(C)東海テレビ放送

自身は「本当はビビりなんですけど」と笑うが、相当な怖いもの知らずか、天然か。「何、撮っとんねん」とどやされたこともあったそうだが、100日間ひたすらカメラを回し続けた。

夜、組員の車に同乗し、ある家の玄関先でその家の主らしき人物に何かをやりとりする様子も車内から撮影。車に戻った組員に「何をしていたんですか?」「覚せい剤ですか?」と後部座席から遠慮会釈なく質問する。組員は運転席で一瞬ぎくっとした表情になり「想像にお任せします」と。土方さん、攻めに攻めるのである。

さらなる取材クルーの勇姿や、組員の逮捕、組事務所内の家宅捜索といった緊迫した瞬間の連続は映画を見ていただくこととして、読者の一番の疑問は、なぜ、本物のヤクザが「顔出し」での長期取材・撮影をOKしたか、ということではないか。

ある組員がカメラに向かって言った言葉がある。

「これな、わしら人権ないんとちゃう?」

会長自身も、ヤクザとその家族に人権侵害が起きている、と語る。彼らの言い分はこうだ。

暴力団対策法、暴力団排除条例があることで、私たち組員は銀行口座がつくれず子どもの給食費は引き落とせない。引き落とせないならば、と給食費を子どもに持たせれば、「親がヤクザだ」とバレる。ヤクザであることを隠して口座をつくると、詐欺で逮捕される(編集部注:詐欺罪を適用することに法曹関係者から異論も出ている)。

また、自動車保険の交渉がこじれると詐欺や恐喝で逮捕されることもある。弁護士に依頼しようとしても、ほとんどは「ヤクザお断り」だ。