ヤクザは人権侵害されてもいいのか?

なるほど、これが「顔出し」のリスクを負ってまで主張したかったことなのだろう。

日本国憲法第14条はこう定めている。

<すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会関係において、差別されない>

確かに彼らが差別され、人権侵害されていると認定される可能性は高い。しかし、だからといって、私たち一般市民は彼らに同情するわけではないだろう。コワいし、関わり合いになりたくないタイプの人たちだからだ。

「銀行口座をつくれないのは、自業自得」。仮にそんな気持ちがわきあがってもおかしくないかもしれない。


『ヤクザと憲法』(C)東海テレビ放送

作品のプロデューサー・阿武野勝彦さん(東海テレビ報道局)は「企画段階において報道局内で議論があった」という。一部に出た反対意見は次のような主旨だ。

「(法の下の平等などの)憲法や法律は、クリーンな人(一般人)が守られるためのもので、“真っ黒”な人に適用される必要があるのか。彼らを“表”の人として扱うこと自体、テレビ局としてはOB、アウト・オブ・バーンズだろう」

それでも、「反社会的勢力だとしても同じ人間。彼らが今、置かれた立場・状況を知らせるのは報道機関の務め」という阿武野さんや土方さんらの主張が通った。放送後、視聴者から電話やメールが殺到したが、「ヤクザを扱うなどけしからん」といった否定的意見は1割のみで、残り9割は「ヤクザの人権を考えさせられた」「続編をつくってほしい」と好意的なものだったという。

ヤクザのすべてを受け入れるということではないにせよ、好意的な評価が多かったのはどういうことなのか。