ナイロンバッグを指して「それマシンガンですか?」

「謝礼金は一切支払わない」
「モザイクはかけない」
「撮影素材を事前に見せない」

会長(組長)は、この3つの提示条件を受け入れた。もちろん、組の「言い分」には耳を傾けるが、その主張を作品内に残すかどうかはわからない。決定権は自分たちにある。会長は、それについても何の異存なく了解した――。

ドキュメント映画『ヤクザと憲法』がポレポレ東中野で公開されている。

約100日間。東海テレビ報道部の土方(ひじかた)宏史さん(監督)を中心とした取材クルーが大阪のある指定暴力団に密着した。ちょうど1年前のことだ。

『ヤクザと憲法』のワンシーンから(以下同)。取材する側とされる側の緊張感が伝わってくる。2016年1月2日よりポレポレ東中野にてロードショー中。ほか全国順次公開予定。(C)東海テレビ放送 ▼作品公式サイト http://www.893-kenpou.com/

昨年3月、東海地域の視聴者向けに放送されたこの作品が、今回、東京を皮切りに全国の映画館で順次公開される予定だという。

土方さんは今年40歳になるテレビマンだ。細身で肌が白いイケメン。歌舞伎の女形が似合うような優しい表情が印象的だ。上智大学の英文学科を卒業後、情報番組などの制作担当を経て報道部に配属された。

警察記者を2年務めたものの、犯罪事件を扱う記者に漂う疲労感や擦れた感じとは無縁な、軽やかな雰囲気の土方さんは、この作品でそのキャラクターをいかんなく発揮。組員たちの日々の活動、自宅内部、生い立ち、ヤクザの歴史などを丹念に追っていく。

眼光鋭い男だらけの濃密な組の人間関係は、いわば疑似家族といったところ。その中に明らかな〝異分子〟がのこのこ入っていくわけだから、当然ハプニングは起こる。

例えば、組事務所の片隅に横たわっていた怪しげな緑色の細長いナイロンバッグ。

「マシンガンですか?」と質問する土方さんに、元料理人の組員(推定50代)は慌てて言う。

「そんなわけないじゃないですか」

こうした潜入取材では、取材者はついあれこれ「素朴な質問」を浴びせたくなる。だが、今回は相手が相手だ。最初は丁寧な対応でも、何かが地雷となって凄まれるかわからない。だから、腰の引けたスタンスになるかと思いきや、さにあらず。