匂いの強いたこ焼きを機内で売る理由
アンシラリーサービス(有償の付帯事業)においても、ピーチの独自性は群を抜く。航空会社は航空券を売って収益を得ているが、収益性は低い。低価格のLCCはなおさらだ。そこで、LCCはどこも機内食や機内販売、保険販売など航空券以外のビジネスに力を入れている。だが、ピーチほどアンシラリーのメニューが多彩で独自性に富んでいるLCCはない。
例えば広告。機体のラッピング広告に始まって、機体のドアの部分に広告を入れるネーミングライツ、CAによる機内でのサンプル配布(機内でのアナウンス付き)、搭乗券やEチケットも広告媒体として売り出している。
ただし、何でもOKというわけではない。アンシラリーイノベーション部部長の大森研治は言う。
「他のエアラインがやらないことをやるのが前提ですが、面白いだけではダメ。クライアントにとってメリットがあり、収益も確保できること。そして、安全性を損ねないことがアンシラリーの絶対条件です」
条件を踏まえていれば、後はとりあえずやってみるのがピーチのスタンス。関西―松山線を対象に売り出した最大3カ月間乗り放題の定額チケットは売れ行き不振のため、期間内であっさりと販売を終了したが、就航地でもないのに売り出した難波-鳥取間の高速バスの割引乗車券は予想外に好評を得て、いまも継続販売中だ。
「人まねをしない」ポリシーは機内食にも貫かれている。筆頭は、大阪名物のお好み焼きやたこ焼きだろう。その強烈な匂いゆえに、たこ焼きを機内食に取り入れれば他の乗客から苦情が入るかもしれない。そう考えるのが一般的だが、大森たちの発想は違う。
「全員が賛成するものはあえてやりません。エッジが効かなくなるからです。たこ焼きも賛成したのは少数派でしたが、やってみると受けがいい。もちろん、ボツになったものもたくさんありますよ。東京ドームで売り子さんが生ビールを販売しているじゃないですか。あれも取り入れたかったんですが、さすがに保安上難しいと断念した。実現すると面白いんですが、残念」(笑)