アナウンサーとは“間をつなぐ”職業です。自分が喋ることより、人と会話を滞りなくつなげて、場を和やかに保っていくということが重要。そうすることでインタビュー中に予想もしなかった素晴らしい答えがもらえることもあるし、ビジネスのうえでも大事なことだと思います。
会話をつなげるためには、相手に質問していけばいいんです。
「あなたにとって経営とは?」なんて難しいことを聞く必要はありません。「昨日何食べました?」など答えやすい、具体的な質問をする。何を質問していいかわからない人は時間軸に沿って聞きましょう。「こんな投資をした」という話から「その前は何を検討していたんですか?」「結果どうなったんですか?」。内容よりも答えやすいか否か、その一点が肝心です。
驚くことと面白がることも、人の話を促します。褒めるのもいいのですが、これは意外に難しい。驚くほうが簡単です。「えっ!?」なんて究極の相槌。話がどんどん加速します。面白がるためには、自分の価値観やハードルを下げましょう。「昨日牛丼食べたの? 本当に!?」と心底思うぐらいの気持ちで挑みましょう。
「間違った情報」も効果的です。昔「いいとも」で、タモリさんが犬好きのゲストに「今、シベリアンハスキー流行ってるんだって?」と問いかけ、「それ昔の話ですね。今は……」とそこから盛り上がっていました。人は間違った情報を訂正するとき、一番喋ってくれるんです。でも作為が臭っちゃうんで、わざと間違えるのはやめましょう。
NHK「あさイチ」などの司会で活躍しているV6のイノッチは、何回か共演しましたが、徳の高いお坊さんみたいな方で相槌がうまい。「俺の話を聞け」という意思は全くなく、穏やかな人格が伝わるから相手が喋るんです。一方、某女優さんが「別に……」と何も語らなかったことで、その性格が全力で伝わったじゃないですか。つまり、喋ったら意思が伝わるわけでもないし、喋らなければ伝わらずにすむわけでもない。「喋りは自己表現であって、何かを伝えよう」なんて考えないほうがいいわけですよ。ただ会話をつなげていけば、何かが伝わるし、何かが生まれるんです。
喋るのに苦手意識がある人は、2点だけ乗り越えてください。1つは、自分の弱点をいじられたとき、テンションを下げないこと。もう1つは、自分から話しかける一歩目の勇気を持つこと。そこさえクリアすれば誰でもうまく話せます。そう考えたら、やれる気がしません?
1975年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2012年第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティー賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書に『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』。