「実は……。」誰もが何気なく口にする言葉である。だが、前ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント社長の土岐大介氏は、かつての部下がこのフレーズを自分だけでなく顧客や部下に頻繁に使用する場面を見て、「他人のふり見てわがふり直」したという。

「『実はですね』という言葉で始まると、聞く側は、一般的・常識的にはAとなっていますが、本当はBなんですよ、といったサプライズ感のある内容の話を期待します。しかし、ほとんどの場合、そんな衝撃的な話は出てきません。『実は』と話している本人は、いかにも特別なことを知っているという雰囲気ですが、完全に看板倒れなのです。何度も『実は』と聞いていると『何を偉そうに言っているんだ』と腹立たしくなります。 おそらく言っている本人は無意識に話している口癖で、周囲からは大いに顰蹙を買ってしまっていたのです」(土岐氏)

ただ、このような人物は、自分のほうが顧客や部下などより経験があるという意識が強く、話し相手に「こうすべきかと思います」「こうすればいいのでは」と高飛車な言動が多く、顧客から激怒されることもあったようだ。

一方、デロイト トーマツ コンサルティング シニアマネジャーの河野英太郎氏は、かつての上司に仕事を依頼されたとき、「とりあえず……します」と返答したところ、「君はそんな適当な気持ちで仕事しているのか」と注意されたという。

「私自身はいい加減な気持ちで仕事をする気持ちは毛頭ありませんでした。すぐに手をつけます、という意味で『とりあえず』と言ったのですが、確かに『やっつけ仕事』に聞こえるかもしれません。反省して、それ以来『まず……します』と言うように心がけています」(河野氏)