「買ってほしい」とは一切書かない

市村氏は顧客に対してお礼状ばかりでなく、定期的に手書きの手紙を出してきた。しかし、株や投資信託を購入してほしいとは一切書かなかったという。

「オーナー経営者で株や投資信託を買いたがる人はわずか。自社の事業が一番儲かると思うから経営しているわけです。先方が望んでいるのは、本業の支援です。だから、相手が困っていることを解決するヒントになるような内容を書いて送りました」

たとえば「社長、営業力で悩んでいませんか。営業力アップのために当社で実施している研修についてご説明しましょうか」といった内容の手紙を送る。すると、むこうから電話がかかってきて、「あなたの言うとおり、営業力が弱くて困っている。すぐに来てくれ」と頼まれる。

また、あるオーナー経営者がM&Aを行うときは、新しく買った事業に精通している人材が社内に乏しいと見て、「マネジメントできる人がいないのではないですか?」と手紙を書いた。これも「そのとおりだ」とすぐに返事をもらった。


相手に興味を抱かせる自己紹介書 写真はファーストヴィレッジ設立時の紹介書。野村證券で後輩の証券マンを指導するときには、A4用紙1枚の中に顔写真を貼り、名前、出身大学、故郷、特技、それまでの苦労してきたことや努力してきたこと、自身がこのエリアの担当であることを書き込ませた。

人一倍働く姿勢と巻き紙の効果で、ついには月に600億円を売り上げるトップセールスマンに上り詰める。その後、最年少で大森支店長に抜擢。こうした実績を買われ、KOBE証券(現・インヴァスト証券)にスカウトされ、2002年には同社の社長となり、06年には同社を株式公開させた。証券マン時代の24年間で獲得した顧客はざっと6000人。その大半がオーナー経営者や超富裕層と呼ばれる人たちだ。

07年に独立。M&Aなどのコンサルティングを行うファーストヴィレッジを創業した。

「独立時、新しい会社で何をやりたいかを書いた手紙を6000人に送りました。『お花をいただくよりも講演を依頼してください』と冗談も交えて(笑)」

手書きの巻き紙を送るという手間のかかる作業を30年以上欠かさなかった結果、顧客6000人との付き合いは今も続いている。

 
ファーストヴィレッジ社長 市村洋文
1959年、北海道生まれ。立教大学卒業後、野村證券に入社。月間手数料収入6億円の記録を打ち立てる。98年にKOBE証券に転じ、2002年社長を経て、07年より現職。
(Top Communication=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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