どうすれば他の営業マンより印象を残せるか。その1つが自己紹介書だった。ポストに名刺を1枚置いても次につながることはまずない。自分を知ってもらおうと、顔写真を貼り、大学で学んだことや信条をA4にまとめた。初めて会う顧客には必ずその紙を手渡すようにした。

そうしてようやく会えたら、面談後に毛筆で書いた巻き紙にお礼をしたため、送った。


面談のお礼は巻き紙でその日のうちに 写真は主催イベント参加者へのお礼をしたためた巻き紙。野村證券時代から30年以上続けている。和紙を数枚貼り合わせて作り、毛筆で書きあげる。内容は会話の中で出た話やファッションなどのエピソードを交える。投函するスピードを重視し、夜の宴会があっても朝一番で出す。

「野村證券では訪問先にお礼状を書くことが義務付けられていました。ここでも差を付けようと通常1枚しか使わない和紙を貼り合わせ、巻き紙にして送り始めた」

作成はできるだけ面談したその日に書いて投函した。日ごろ、証券や保険のセールスをうんざりするほど受けている富裕層たちも、市村氏のお礼状には目を留めたという。

巻き紙には面談したときの会話の内容や、相手のファッションなどに触れ、そのときの様子をありありと思い出せることを書き加えた。

「通り一遍の内容ではまったく受けません。親しみを覚えてもらえるような中身なら喜んでもらえます。そして、『忙しいなか、よく心のこもった礼状を書いてくれたな』と感心してくれるのです」

この巻き紙の効果もあり、高額納税者トップ10に入る経営者まで顧客に名を連ねるようになった。