読者の皆さんはオタクというと、どんな人物を即座に思い浮かべるだろうか。
「アニメやゲーム、アイドルなど特定の分野に人並み外れて詳しく、DVDやゲームソフトなどを膨大に収集している」「一方でコミュニケーション能力には乏しく、オタク同士の閉じた空間で彼らにしかわからない知識自慢に励む」「加えて外見にはあまり頓着せず、チェックのシャツにジーンズ、リュックサックといった典型的なオタクファッションに身を包んでいる」
こんなイメージをお持ちの方は決して少なくないと思う。何を隠そう僕自身、そんなオタクたちが今でもアニメやゲーム産業の中核的な消費者として存在しているのだろうと思い込んでいた。
しかし本書――『新・オタク経済――3兆円市場の地殻大変動』の著者は指摘する。
「それは従来型の、言ってみれば2000年代前半くらいまでの『オタク』像です。2015年現在、10代から20代の若者たちの間には、そんな旧来型のメディアが報じるオタク像からかけ離れた、ニュータイプのオタクが誕生・増加してきていることをご存知でしょうか」
本書は最新の若いオタク像を分類・詳述し、彼ら彼女らの感性や価値観の理解を通して若者市場攻略のヒントを提供するユニークな世代論・マーケティング論である。
著者は100人を超える若者オタクへのインタビューを踏まえて、2000年代前半から今日にかけてオタクは変容したと分析する。
例えば、かつてのオタクはアニメなどの作品のソフトはもちろん資料となる雑誌やムックなどを大量に購入していたが、モノの所有に興味を持たないオタクが増えているという。おしゃれで「リア充」すなわち交友関係や恋愛関係などリアルな関係が充実しているオタクも今や少なくないと指摘する。さらにオタクであることを隠さず、むしろ「僕は○○オタクです」などと周囲に積極的にアピールする若者も増えているという。
著者はこうした変化を「若者オタクの大衆化、ライト化、カジュアル化」と定義づける。変化の理由についてはぜひ本書をお読みいただければと思うが、興味深いのは次の指摘だ。著者は、こうした変化によってオタク人口は増加し、典型的な濃いオタクが目立たなくなったにもかかわらず、アニメやゲームなどの市場はこの10年で4倍に成長したと言う。そしてこう続ける。
「対象がオタクでなくとも、ごく一般の若者たちにも、オタクテイストの商品やサービスが受け入れられる時代にもなってきていますが、まだまだこの領域も企業は消極的だと言わざるを得ません」
「今の若者はお金を使わない」常識を突き崩すヒントも本書には盛り込まれている。