商品におけるネーミングがいかに重要か。そのことを本当に理解している経営者やビジネスマンは案外少ないのではないかと私は思う。一方、研究開発に惜しみなく力を注ぐ経営者やビジネスマンは、それよりもはるかに多いだろう。

その点で本書は非常に面白い事例を提供してくれた。

「ネジザウルス」とは2002年の発売以来、シリーズ累計で250万丁も販売されたベストセラー商品である。いったい、どんなものなのか。実は、頭の溝がつぶれたネジやさびで固まってしまったネジを外す専用工具なのだ。

開発したのは、大阪にある「株式会社エンジニア」という小さな会社だ。1948年創業で、社員数は30人。父親と叔父が創業した会社を受け継いだ2代目の社長が本書の作者である。

この社長はなかなかの人物で、20年間で約800アイテムの新商品を開発した。だが、「年間1万丁も売れれば大ヒット」と言われる工具の世界では爆発的な大ヒットが生まれにくい。心血を注いで開発されたこの工具も、同じ運命をたどるはずだった。

当初「小ネジプライヤー」と呼ばれたこの工具は00年秋に発売されたが、その年の販売実績は微々たるもので、翌年も1年間で800丁足らずしか売れなかった。販売価格を34%下げて挑戦してみても、機能を向上させても、売れないままだった。

反省した著者は、販売戦略を変える作戦に出た。機械工具専門店に卸すだけではなく、ホームセンターや金物店の店頭に商品を並べるように、方向を思い切り転換させたのだ。同時に、パッケージデザインを一新し、商品名も恐竜に見立てた「ネジザウルス」という親しみやすいものに変えて再発売したのである。

すると、この工具は驚くほどの勢いで売れ始めた。「小ネジプライヤー」の初月の販売数が15丁だったのに、「ネジザウルス」は2桁も違う約4500丁だ。結局、その年は約7万丁も売れた。ようやく生まれたヒット商品に社内も沸き返った。わずか1年で100倍近くも売れるようになったのだ。

だが、著者はそれだけでは満足しない。発売から8年目の09年、ニーズはすでに飽和状態にあるという業界の常識にあえて逆らい、消費者の声をヒントに新機能を持たせた4代目のモデル「ネジザウルスGT」を発売した。この挑戦が吉と出て、ネジザウルスシリーズはいったん失ったかに見えた勢いを取り戻し、そのうえネジザウルスGTはグッドデザイン賞受賞などの栄誉に輝くのだ。

本書を読みながら、この著者――いや「社長さん」に会いたい、中国の中小企業の経営者たちを前に講演をしてもらいたいと何度も何度も思った。こういう読書経験は初めてだ。

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