女性役員が育休社員に「甘えてんじゃないわよ!」
マタハラをするのは男性に限らない。
厚労省の調査では、マタハラ行為をした女性の直属上司が11.1%、女性の上位の役職者・役員が5.7%、女性の同僚、部下が9.5%と同性が少なくない点だ。同僚・部下では女性のほうが多い。
じつは連合のマタハラ調査でも似たような結果が出ている。マタハラが起こる原因について「男性社員の妊娠・出産への理解不足・協力不足」が51.3%と最も多かったが、「女性社員の妊娠・出産への理解不足・協力不足」が22.0%、「女性社員の妬み」が14.1%もあった(2013年調査)。
だが一方では同じ調査で、女性の妊娠・出産に関して「最も理解がある」と感じる人は誰かという質問では「同僚・部下(女性)」(31.0%)、「上司(女性)」(20.4%)と答えた人が多かった。同じ女性でも、マタハラ行為をする無理解な者もいれば、寄り添ってくれる理解者もいる。この〝矛盾〟をどう考えればよいのだろうか。
別に驚くに当たらないと指摘するのは食品業の人事部長だ。
「女性同士だから妊娠・出産した女性に協力してくれるというわけではない。女性の上司が結婚しているとは限らないし、出産している人ばかりではない。むしろ子どもを持つ男性上司のほうが、子どもが熱を出したらどういうことが起きるのか理解できる場合もあるし、性別は関係ない。また、本当は結婚して子どもを産みたかった女性上司の中には、子どもを産んだ女性に対して嫉妬の気持ちを抱く人もいると思う」
結婚や妊娠・出産経験の有無、身内にそういう人がいるかによって対応も違ってくるのだろう。また、
人事部長は子どもを産み育てた経験のある女性でも上の役職者ほど若い女性に冷たいと言う。
「当社の女性役員は仕事量も多いし、夜遅くまで仕事をしている。若いころから子どもの面倒は家族に見てもらい、自分は男性に負けずに猛烈に働いてきた人。あるときその役員に『女性の時短勤務者が多くて人事も大変です』と言ったところ、突然『甘えてんじゃないわよ!』と怒りだしたのには驚いた。彼女から見れば、育児で休むとか、早退するというのは納得がいかないのだろう」
たとえ子どもを産み育てた経験を持ち、バリバリ働いているとしても、こういう女性役員は若い女性からは「仕事と子育ての両立」のロールモデルにならないだろう。
安倍政権は希望出生率の実現の方策として、幼児教育の無償化、派遣社員の育児休業取得の推進、待機児童ゼロなどの施策を検討している。
しかし、いくら制度を整えてもマタハラの実態に象徴される経営陣の意識や職場風土が変わらなければ絵に描いた餅に終わるだろう。