強みと美徳を研究するVIA研究所によると、人の強みは24種類に分類されることがわかっている。そのうち、達成力につながる“やり抜く力”に関係するのは「熱意」「自制心」「忍耐力」だと考えられる。

「熱意」を強みとする人は、情熱と活力をもって仕事や勉強に打ち込むことができる。そのポジティブな感情は、周りの人たちにも影響を与え、元気にさせるのが特徴だ。

人間の感情や雰囲気には波及効果があり、周囲に伝染することは経験的に理解できるだろう。たとえば職場のマネジャーが熱意を強みとするタイプなら、そのポジティブなエネルギーがチーム全体に伝わり、高い目標に取り組める“熱い集団”になる。短期間で業績を伸ばすベンチャー企業などでよく見られることだ。

反対にマネジャーがネガティブなエネルギーを発していると、メンバーの活力を削ぎ、自信を喪失させて「自分はなんて小さな存在なんだ」と自己肯定感を低くする。これも多くの職場で見られる状態だ。

大村氏は定時制高校の教師だった頃、勤め先の工場から試験に駆けつけた生徒の手が油で汚れているのを見て、もっと自分も勉強しなくてはいけないと思ったというエピソードはよく知られる。心に火がついた瞬間だ。

しかし熱意の強みだけでは、高く困難な目標の達成にはつながらない。新しいことには熱心に取り組むが、すぐに飽きて意欲が継続できない人もいる。 グリットを自分のものにするには、この熱意に加えて自制心と忍耐力の強みを身につける必要があるだろう。

「自制心」の強みをもつ人は、自分の感情や思考の反応を的確に把握し、コントロールできる。目標に到達するため、誘惑に負けないのも自制心の表れだ。仕事中にはさまざまな誘惑がある。遊びの誘惑やお酒の誘惑はもちろん、最近ではフェイスブックなどのSNSも仕事への集中を妨げる誘惑の1つになっている。

「スマホが気になって、ひと息つくたびに手に取ってしまう人が増えています。あるいは、ダイエット中なのについお菓子を口に運んでしまう、貯蓄に励みながらコンビニで無駄づかいするのも同じです。そういう“マイクロ誘惑”は、積み重なると自制心を弱める負の影響が大きいものです」

大きな誘惑は気づきやすくて抵抗しやすいが、これぐらい大丈夫だ、と慣れ親しんでしてしまう“マイクロ誘惑”は怖い。その繰り返しによって、自制心がしだいに劣化していくこともある。欲望を抑制する心は小さなところから崩れやすい。

自制心が“マイクロ誘惑”で劣化するのと反対に、小さな挑戦を繰り返すことで自制心が強化されることも期待できる。たとえば、「始業30分前に出社する」「毎日ウオーキングや運動をする」といった小さな目標を2週間ほど達成しつづけるだけでも、自制心は徐々に鍛えられる。

3つ目の「忍耐力」の強みは、集中力と我慢強さのことで、ある課題を最後までやり遂げるという気概、気骨にかかわる。途中で障害にあっても、目標に向かって努力を継続できることは、ビジネス活動の根幹だといえるだろう。

この忍耐力も、仕事を最後までやり遂げた達成感の積み重ねで鍛えることができる。困難に直面して投げ出した経験が多いと、それが習慣化して「しつこさ」「しぶとさ」が培われることもない。

「自分のやり抜く力を高めたいなら、日頃から熱意、自制心、忍耐力を意識して仕事に取り組むことが大切です。強みを発揮することは、レジリエンスを強化し、仕事の活性化にもつながります」

大村氏の偉業をきっかけに、レジリエンスが強い個人、レジリエンスが強い組織が増えれば、日本の競争力も高まることが期待できるだろう。

(共同通信社/amanaimages=写真)
【関連記事】
ノーベル賞受賞! 北里大学・大村智名誉教授から学ぶ独創性
レジリエンス -どんな困難にもへこたれないタフな心
なぜ、心が折れない人は「とことん悩む」時間を作るのか
ノーベル賞・山中教授のモットーは「VWとジョギング」
仕事で先が見えないときの踏ん張り方