クラフトが大きく広がらない理由

アメリカでのクラフトビール人気は数字としても明確に表れています。ビール市場全体に占めるクラフトビールのシェアは2014年には11%までに成長しています。2010年には5%にすぎなかったのでこの4年で倍以上へと急拡大していることがわかります(ちなみに日本では、まだシェア1%程度にとどまります)。

さて、大手メーカーをも動かす大きなうねりとなったクラフトビールブームですが、今後はどうなっていくでしょうか。ビール市場全体の1%程度の現在のシェアが、果たしてアメリカ並みに10%を越えていくのでしょうか。個人的には、個別ブランドはさておき、クラフトビール全体がこれ以上大きく広がっていくことはないのではないかと感じています。というのも、果たして今後「家庭内」でどの程度飲まれるようになるかには疑問を感じてしまうからです。

先ほど、ビアフェスやブルーパブについて触れました。ここから読み取れるのは、現在のクラフトビール人気を支えているのは、単にビールの属性が評価されているからというよりは、「クラフトビール体験」とでも呼べる、ワクワク感ではないかということです。これまでのビールでは得られなかった新しい体験に対して、生活者は反応しているのではないでしょうか。

なお、クラフトビールの話ではありませんが、ビールを取り巻く環境で注目しておきたいのは、「ビアガーデンの進化」です。最近のビアガーデンは、おしゃれな環境で美味しい料理を楽しめるところが急速に増えています。結果的に、これまでビアガーデンに足を運ばなかった感度の高い女性客も増えました。このような進化形ビアガーデンの人気も、都会の空の下で優雅にビールを楽しむという「ビール体験」がその要因と考えられます。

クラフトビールは大手メーカーの商品に比べて一般的には高価ですが、ビアフェスや飲食店における楽しいビール体験はそれを納得させてくれるものです。一方で、クラフトビールが缶ビールや瓶ビールなどのパッケージグッズとしてスーパーやコンビニでナショナルブランドと並んだ場合、果たしてどこまで支持されるのかには疑問が残ります。もちろんそれでも愛されるクラフトビールブランドはあるでしょうが、多くの商品は自宅で楽しむという前提においては「ちょっと高いかな」と敬遠されてしまう可能性は高いでしょう。

逆に言えば、クラフトビールはいかにして大手メーカーの商品とは違うところにその存在価値を見いだせるかが生命線です。それは外食やイベントのシーンかもしれませんし、ギフトのような特別な需要をもっと掘り起こしていくことかもしれません。そうしたシーンを増やすことで、クラフトビールは一過性のブームではなく、人々の生活に根付くものとなっていくのではないでしょうか。

 

子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食コンサルタント。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/

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