キリンには、長きにわたりリーディングカンパニーだった矜持がある。ついに反転攻勢が始まった!
汚名返上! 一番搾りで復活
「ラガーはどうするんだという反発は当然ありました。しかし、腹を据えて戦うために必要な判断でした」
業界首位から転落し、10年以降は2位が定位置となりつつあるキリンビール。布施孝之社長は、昨年3月に営業部門を統括するキリンビールマーケティングの社長に就くと、シェア回復のために、一番搾りに投資を集中することを決めた。
重点戦略は前職の小岩井乳業社長時代に成功を経験済みだ。今回は一番搾りを突破口にし、結果として、一番搾りの販売数量は10年ぶりに増加に転じ、15年上半期は4社の中で唯一の販売数量増。昨年の独り負けから独り勝ちへ、汚名返上だ。
昨年9月、糖質・プリン体ゼロの発泡酒を4社がこぞって出したゼロゼロ戦争での勝利も社内の空気を好転させた。布施社長みずからが店頭に立つと各地域のトップも呼応した。冷めてしまっていたマインドが大きく燃え上がった瞬間だ。
「おかげで4社の中でトップを取れた。そうすると社員の自信と誇りも復活してくる。『うちの商品には力がある』と思い直すことができたはずです」
そもそもキリンは機能系ビール類の世界を切り開いた草分け的存在だ。13年6月にサッポロがゼロゼロ商品である新ジャンル「極ZERO」を発売した時点で、キリンも糖質・プリン体ゼロの研究は進めており、実を結びつつあった。
これまで培ってきた、吸着剤を使用してプリン体をカットする技術。酒類技術研究所の松尾壮昌氏が丹念に研究を続けた成果が、発泡酒「淡麗プラチナダブル」なのだ。極ZEROが国税庁からの物言いで発泡酒として発売された2カ月後に発売するや瞬く間に売れ、勝利を収めた。
酒類技術研究所の主査である片山貴仁氏はこう語る。「お客様にとってメリットがあると思ったテーマは、研究員が好きに取り組むことができる風土もキリンの強み。常に新しい価値、驚き、感動を提供すべく、日夜研究に励んでいます」。
キリンは今年1月、クラフトビール事業のための新会社、スプリングバレーブルワリーを設立した。クラフトビール市場は小さいが、幅広い味わいが魅力で、消費者の嗜好の変化に対応、着実に成長を続けている。