うちの社長は『ナカノ・イズム』やで

こうした健康関連事業の成果が上がるにつれて、中野BCというユニークな社名の効果もあって、全国の優秀な大学から理科系新卒者の応募が殺到するようになった。

「多い時は3000人もの応募がありました。有名大学の大学院卒業生も多く、健康や地域に貢献したいと言うのです。いまでも1500人ほど応募があり、研究者としては主に院卒を採用しています」と幸生は語る。

これほど入社希望者が多いのは、事業の面白さや意義もさることながら、幸生の人間的な魅力も関係しているだろう。

幸生は信念の経営者である。「思想が社長」が口癖だ。つまり、哲学や物の考え方こそが経営の根幹だという。

「父のような創業者は『俺についてこい』でいいが、私は社長に就任したときから思想経営をしたいと思っていました。社員に思想を示し、それに共鳴してくれる社員たちと会社を運営する。命令で社員は動くものではありません」

幸生は、まだ専務だった1985年に社是や社訓、経営信条、綱領を作った。社是は「衆智を持って常に創造せよ」、社訓は「手の届きそうな夢を持ち技術・研究・開発で世界に通ずるニッチトップのモノづくりを目指す」である。

「理念を作るに当たって、和歌山出身の松下幸之助の本を全て読み、その思想に大きな影響を受けると共に、経営のコツとは自ら悟るものでしかないと初めて気づきました。そこで、松下本社を訪ねて朝会風景を見学させてもらい、経営理念をまとめた教科書をもらってきました」

こうして、社是・社訓を作り、幸之助の理念を取り入れた『我が社の経営理念』という冊子を作り、社員に手渡した。以来、「ナカノ・イズム」とこれを称し、地道に粘り強く定着を図ってきた。また、朝会も始め、社員一人ひとりが発表する場を設けた。社員は当初、嫌がったが、いまでは上手に話せるようになった。

社長室には「経営の拠り所」と題した額が飾ってある。そこには「うちの社長は、『ナカノ・イズム』やで。『ナカノ・イズム』という経営理念が“光”や」とある。

幸生はその額を指さし、「これこそが私の経営指針です」と語った。

幸生は75歳になるいまも勉強熱心で、本を読み、多くの人と会い、啓発を受けた言葉をノートにまとめ続けている。そうした言葉をまとめた冊子も作った。日本経済団体連合会理事や和歌山県経営者協会会長、関西ニュービジネス協議会副会長など要職を兼務してきたのも、「いろいろな人と出会って学ぶため」だという。

最後に「経営のコツを何か悟りましたか」と聞くと、幸生はこう答えた。

「いやいや一生勉強です。一生懸命やっていたら何かひらめくことはある。ただ、和歌山の“宝物”をもっと掘り起こしたいですね。何ごともし尽くしたということはありえないと思う」

幸生が創業者の父の思いを継いできたように、長男の幸治も幸生の思いを継いで、さらに中野BCは進化し続ける。

(文中敬称略)

中野BC株式会社
●代表者:中野幸生
●創業:1932年
●業種:清酒・梅酒・焼酎・みりんなど酒類の製造販売、機能性食品の製造販売など
●従業員:175名(パート含む)
●年商:31億円(2014年度)
●本社:和歌山県海南市
●ホームページ:http://www.nakano-group.co.jp/
(中野BC=写真提供)
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