「新卒一括採用」への批判は的外れ

今回の「就活時期の繰り下げ」は多数の混乱を招き、企業や学生は大きな負担を強いられた。この経験を無駄にするべきではないだろう。私なりに整理すると、大きく次の3つの点では評価できる点もあった。

1つ目は「採用手法の多様化」だ。この20年ほどで就活では「マイナビ」「リクナビ」などの就職ナビが広く普及した。この結果、だれでも一括して複数の企業に応募できるようになった。その半面、採用側は学歴による選別などを水面下で行うようになった。今回、経団連の指針にあわせて就職ナビの開始時期も繰り下げられたため、企業は就職ナビ以外での接触を探るようになり、学生も企業の雰囲気を知る機会が増えたようだ。「就職ナビ依存型」の採用が是正されることを期待している。

2つ目は、「ワークルールへの関心の向上」である。今年は企業が内定を出した学生に就職活動を終えるよう迫る「就活終われハラスメント(オワハラ)」が急増した。このため他社の内定辞退を強要するような悪質企業は、学生間で情報共有が進んだほか、企業名を名指しして注意喚起を行う大学もあった。「オワハラ」問題は、ワークルールを歪める問題企業を炙り出した側面もある。

3つ目は「時期に関するルールは破られることが証明された」という点である。論じてきた通り、時期だけの議論では問題は解決しない。

では望ましい就活とはどのようなものなのだろうか。よく「新卒一括採用」が批判の槍玉に挙げられるが、これは的外れだ。「新卒一括採用」とは、企業側がリスクを負って、未完成の若者の可能性にかける行為である。また応募側としては、特別の職務経験がなくても採用の可能性がある。

「多様性を阻害している」との批判もあるが、むしろ経験者採用のほうが画一的な採用に陥りがちだ。一時期に多数の人材を採るからこそ、「同期」のなかで多様性が生まれる。新卒一括採用という仕組みによって、企業はリスクを払って多様な人材を味わおうとしているのだ。

ただし学生、大学、企業は、それぞれ課題も抱えている。本音で指摘してみたい。