そもそも日本の就活の歴史とは、時期論争の歴史である。初めて就活の時期に関する申し合わせができたのは1928年にできた「六社協定」だ。簡単に言うと「就活時期が早過ぎるから卒業後に就活を」という取り決めだったのだが、最終的に守る企業が6社しかなかったので、こう呼ばれるようになった。その後、戦後すぐに政府も関わるかたちで「就職協定」がうまれたが、途中、経済団体が「野放し宣言」をするなど、やはりフライングが相次ぎ、守られなかった。最終的には1997年に日本経営者団体連盟の根本二郎会長(当時)が「就職協定」の廃止を決め、代わりにガイドラインとしての「倫理憲章」を定めた。ただ、これにも強制力はなく、約1300社の加盟企業のうち、末期では賛同企業は6割程度に過ぎなかった。
今回の経団連の「指針」は、すべての加盟企業が対象になっているが、解釈・運用は各企業に任されており、やはり強制力をもつものではなかった。もっとも罰則などを設けても、効果は薄いだろう。今回、8月以前の面接を「面談」と言い換える企業が相次いだように、抜け道はいくらでもある。そもそも、採用活動は企業活動の一部であり、法律などで過度に規制するべきものではない。
この問題で重要なことは、現実に即した「本音」で議論することだろう。「タテマエ」での議論の特徴は、因果関係が明確ではないことだ。就活の時期が遅くなれば、学生は勉強する、留学するというのは、どういう根拠があるのだろうか。因果関係がありそうだが、決定的ではない。
前者については、単位認定に対する大学側の姿勢も深く関係している。たとえば私立文系では大学3年次までに卒業に必要な単位の大半を取ることができる。就活を終えた大学4年生は、ゼミに少し通う程度で、大学に来る機会も少なくなるのが実態だろう。はたして大学教育はそれでいいのだろうか。
後者については、以前から大企業では留学生などを対象に「夏採用」の日程を用意している。以前、上位から中堅クラスの大学でヒアリングを行ったことがあるが、留学経験者が就活で困っているという事例は聞かれなかった。むしろ企業が留学経験を高く評価し、就活自体もスムーズに済んだというケースも多かった。