「女性は被害者」ではない
【田原】鈴木さんはAV女優としても活躍した。何本ぐらい出たんですか。
【鈴木】3年間で50本くらいです。1人で出る単体のビデオなら、撮影は2日間。あと表紙の撮影に半日かかるので、1本で2日半の拘束です。それでギャラは70万~80万円くらいです。ちなみにいまはインターネット動画が普及して、ギャラはかなり下がってます。1本出て10万円いかないコもいると聞いています。
【田原】キャバクラで稼いでいたから、お金に困っていたわけじゃないよね。AVに出演した理由はなんですか。
【鈴木】ポルノの背徳感に、なんとなく憧れがあったんです。昔の日活のポルノ女優さんって、昼の舞台に出ている女優さんに比べて退廃的な魅力があって、なんかかっこいいなと。
【田原】僕は日活ロマンポルノの白川和子という女優さんをよく知っているんだけど、白川さんはかっこよかった。日活はインチキな会社で、ポルノを「猥褻じゃない。芸術だ」といって上映していました。でも白川さんは「猥褻でいいのよ。私のヌードを見て男性がイッてくれれば、これほどうれしいことはない」と胸を張って言っていた。鈴木さんはどうですか。あなたのAVを見て男性が射精してくれるとうれしい?
【鈴木】出演する前はとくに考えてなかったです。でも、やってみると、男の人に欲望されることで自分の価値を実感している私がいました。フェミニストからは怒られそうですけど、やっぱり男の人に自分のことを欲望してもらえないのは寂しい。AVの世界は、自分がどれだけ欲望されているのかということがお金やランキングでわかりやすく示されます。その意味でAV女優は、女性にとって承認を得られやすい仕事なんだと思います。
【田原】世の中にはセックスワークに対して、「女性はかわいそうな被害者。男性は搾取する加害者」という見方があるけれど、鈴木さんはどう思う?
【鈴木】自分の体を売る仕事は、根底で嫌な思いがある一方、魅力も孕んでいると思います。経済的に豊かになったり、男性にチヤホヤされるのはうれしいし、普通の会社に勤めるより、風俗店の待機所で他の女のコとお客さんの悪口で盛り上がっていたほうがいいというコもたくさんいる。セックスワーカーに女性搾取の面がないとはいわないけれど、彼女たちを被害者ととらえると本質を見抜けないんじゃないかなあ。
【田原】セックスワークに対してフェミニズム的な見方がある一方で、「売春は女性が技術やサービスを売っているだけ。他の労働と同じだ」という人もいる。これはどうですか。
【鈴木】うーん、そういうふうにも割り切れないですね。たとえば吉原のソープで5万円のコがいたとしたら、彼女がもらう5万円の中には、人間的な魅力だったり感情といった労働以外のものが含まれていると思います。セックスワークはただのサービス業だという主張はいまアメリカで主流になっていますが、私は距離感を感じます。
1934年、滋賀県生まれ。早稲田大学文学部卒業後、岩波映画製作所入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経て、77年よりフリーのジャーナリストに。若手起業家との対談を収録した『起業のリアル』(小社刊)ほか、『日本の戦争』など著書多数。