高校時代は渋谷のブルセラショップに通い、慶応大学ではキャバクラ嬢とAV女優を経験。東京大学大学院修了後は日経新聞の記者に。流浪の社会学者が見つめる現代女性の価値観とは──。
父は哲学者母は翻訳家
【田原】鈴木さんは異色の経歴の持ち主だ。慶応大学に在学中、キャバクラで働き始めて、AV女優デビュー。その後は東大大学院を経て、日経新聞の記者として活躍。一昨年『「AV女優」の社会学』を発表して話題を呼びました。とても身軽な生き方でいいと思うんだけど、そもそも夜の世界で働こうとしたきっかけは何だったのですか。
【鈴木】私がまだ知らない、楽しそうな世界があるように見えたんです。それまで私は高校や大学にしっかり行って、サークルやゼミにも入り、正統派な人生を楽しんできました。でも夜の世界には、それとは違う人生の楽しみ方を知ってる人たちがいる気がして、ついフラフラッと。
【田原】誰かに誘われたわけですか。
【鈴木】1人で行くのは心細かったので、最初は高校時代の友達と一緒に行きました。彼女は早稲田だったから、早慶で体験入店です(笑)。
【田原】お父さんは学者で、お母さんは翻訳家。キャバクラで働くことを親御さんは反対しなかった?
【鈴木】親には言ってないです。当時はもう1人暮らししていたので。
【田原】それで働いてみてどうでした? おもしろかった?
【鈴木】はい。昼間の世界で信じられているものとはまた別の価値観やヒエラルキーがあって新鮮でした。
【田原】たとえばどんな?
【鈴木】普通の学校だと、先生の言うことをちゃんと聞くとか、宿題をきちんと出すとか、優等生タイプが評価されるじゃないですか。でも、夜の世界だと、平気で遅刻してくるようなコがお客さんをかっさらってチヤホヤされるんです。
【田原】昼と夜のルールが逆転しちゃうんだ。
【鈴木】逆に昼なら問題にならないのに、夜の世界ではタブーになっていることもあります。たとえば会社なら優秀な人が上客を担当するのは普通のことで、担当替えがあっても恨まれる筋合いはない。でも、夜の世界は人に仕事がくっついているから、人のお客さんに声をかけたりしたら、のけ者にされて生きづらくなります。べつに明文化されているわけじゃないけど、そういうルールがいっぱいあります。