子どものころに「○○博士」と呼ばれたタイプ

発達障害は大きく、注意欠如・多動症(ADHD)と自閉スペクトラム症(ASD)の2タイプに分類される。この名称は、2013年に発行されたアメリカ精神医学会の診断基準DSM-5に依る。

ADHDタイプは集中力が続かない、落ち着きがない、じっとしていられないなどの特性がある。気持ちや考えがコロコロ変わるので周りをイライラさせ、思い込みが強くて早合点が多く、何ごとも突っ走ってしまいがち。たとえていえば「狩猟民族」タイプだ。

一方、ASDタイプは人づきあいが苦手で、ルールや言葉づかいに厳格といった特性がある。これまで年齢や症状によって自閉症、アスペルガー症候群などの診断名となっていたが、DSM-5からは、それらはひとつながりの障害群とみなされている。興味のあることに没頭するので、子どものころに「○○博士」と呼ばれることもある。こちらは「農耕民族」タイプだ。

タイプ分けはあっても、実際は両方の特性を併せ持つこともある。田中氏は「発達障害は特別なものではなく、誰もが多かれ少なかれ同じ特性を持っています。その特性が顕著であり、失敗やトラブルが生活に支障をきたせば、医学的に発達障害と認められることが多いというだけ」と解説する。

10年以上前には、発達障害は子ども特有の症状で成長とともに改善するという見方が強く、専門医でも「大人に発達障害はない」と考える人は多かった。しかし研究が進み、その原因が脳機能の障害だとわかってきた。近年は、職場や家庭でトラブルを抱え、“生きづらさ”を感じる大人が専門医を訪れるケースが増えているという。

「本人が『自分は発達障害かも』と疑って受診するだけでなく、上司や同僚のすすめで来院する方もいます」

トラブルの原因が明らかになる

仕事上のミスが多く、本人も周りの人も困っている場合は、発達障害の診断が下りることが比較的多い。ただし仕事がうまくいかないからといって、すぐに「発達障害」のレッテルを貼るのは危険だと田中氏は指摘する。

「上司と事あるごとに対立し、『おまえは発達障害だから病院で診てもらえ』と言われ、『上司の間違いを証明したい』と来院された方がいました。診察すると、その方はやはり発達障害でなく、単にその上司と性格が合わないだけでした」

何でも発達障害に結びつけるのは間違いだが、発達障害と診断されて本人の救いになることもある。32歳で発達障害と診断された笹森理絵さんは、田中氏との共著『「大人の発達障害」をうまく生きる、うまく活かす』(小学館新書)の中でこう吐露している。

「上司や先輩職員から叱られてばかりで、とくに自分の理解力のなさには、我ながらほとほと情けなくなりました。子どものころから、『私はなにをやってもダメだ』という気持ちを抱いていましたが、ほかの人には難なくできる仕事が、自分にだけできないケースが増えてきたのです。それどころか、会話すら周囲の人たちと噛み合わず、困り果ててしまいました。(中略)私が生きづらいと感じていたことは、私のせいではなくて『障害』によるものだったのです。(中略)本当に救われる思いがしました」

笹森さんのケースのようにトラブルの原因が明らかになることで、職場や家庭によりよい環境をつくるきっかけになることもあるのである。