韓国は歴史問題の外交カードを弄ぶ

韓国もまた日本との国交正常化にあたっては、竹島問題を政治問題化させずに封じ込めた。にもかかわらず、従軍慰安婦問題で、日韓に緊張が高まると、竹島問題で攻勢に転じるようになった。過去の植民地支配という「歴史問題」のカードも使って対日攻勢をかけるようになった。「歴史問題」はときに軍事力よりも使いでのある交渉カードとなる。

当時の李明博大統領は、政権末期の12年8月、竹島に自ら上陸した。そして「韓国領」と書かれた岩の前でテレビカメラに収まってみせた。経済政策の失敗もあって、政権の求心力が弱まっていたさなかの出来事だった。国内のナショナリズムへ屈服したのだろう。こうした構図は、現在の朴槿恵政権とて変わらない。領土問題は、心ある指導者がいるときには、相互に自制が利いているのだが、弱い指導者は、不健全なナショナリズムに屈服しがちなのである。

外交交渉で領土問題が決着した例は史上きわめて稀だ。領土をめぐる外交交渉は往々にして双方の国の国民感情が絡んで妥協を許さなくなるからだ。たとえ政府間の交渉が決着したとしても、政治家は国内の議会を説得して批准(国内における最終的確認と最終的同意)を取りつけなければならない。

領土交渉で政治家は、相手国と国内世論という2つの戦場で戦い、勝利を勝ち取る必要がある。政府間交渉はなんとかまとめても、国内に渦巻くナショナリズムを抑え込んで、交渉の「手形」を得るのは容易なわざではない。