「夢なきものに、理想なし」、出会いも運もない

インターネットが普及する前から情報社会を予測し、時代に先駆けて改革に取り組めたのはなぜか、とよく聞かれます。これに答えるのは難しいのですが、あえて言えば「直感」でしょうか。

経営者というのは、過去の決断や実行におけるプロセスを論理的に説明できるものは2~3割に過ぎず、残りの7~8割は、出会い、偶然、運などに支配されているように思います。つまり、論理的に説明できない、曖昧なものに突き動かされているということです。

では、経営者がなぜ、出会い、偶然、運といった曖昧なものをつかむことができるかといえば、5年先、10年先に向けた夢や志をしっかりと持ち、「企業がどうあるべきか」をつねに考えているからです。あるべき姿を絶えず求めているからこそ、出会いや偶然、運が自分に訪れたときに、逃さずつかまえることができます。また、あるべき姿と現状のギャップを正しく認識し、ギャップを埋めるためにやるべきことを実行することで、企業を成長に導くことができるのです。

昔、吉田松陰はこう言いました。「夢なきものに、理想なし。理想なきものに、計画なし。計画なきものに、実行なし。実行なきものに、成功なし。故に、夢なきものに、成功なし」。夢と志を持つことの大切さは、昔も今も変わりません。

私が思い描く10年後の未来は、パーソナルオーダーが世界標準になっている社会です。これは確信を持って言えます。そのような未来をつくるために、私たちはこれからも、強い意志を持ってあるべき姿を思い描き、世の中の動きに先駆けた提案をどんどん行っていくつもりです。

川田 達男(かわだ・たつお)
セーレン会長兼最高経営責任者
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年より最高執行責任者(COO)兼務。05年より最高経営責任者(CEO)兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。14年より現職。セーレン http://www.seiren.com/

 

(前田はるみ=構成)
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