「混ざり合う社会」へ

【松崎】こういった「スポ育」を事業展開するケースは非常に珍しいんです。そもそも、障がい者スポーツ団体として、障がいを持っていない子たちに授業を提供することに賛否両論がありました。「障がい者」という、ある意味ハンディがあって社会的にもチャレンジがある人たちに対しての支援をしていくのが、障がい者スポーツ団体に対しての社会的通念だったわけです。

われわれはビジョンとして「混ざり合う社会」を目指すダイバーシティインクルージョンを掲げてきました。というのは、障がい者スポーツでどれだけ勝っても、例えばパラリンピックで優勝しても、それイコール混ざり合う社会の実現にはならないと思うんです。

勝つことと社会変化を起すことは違う。マイノリティだけがお客様なのではなくて、顧客定義として目の見えている、視覚障がいがない人もわれわれのお客様だと唱えはじめた時期なんかは、その考え自体に反発も多かったです。そんなことをやっているから試合で勝てないんだ、なんて言われました。障がい者支援団体として、障がいを持っていない人たちへの事業に人・モノ・カネといったリソースをかけるのかと。たしかにチームの強化よりもこちらに力を入れる時期もありましたから、反発があったことはいたしかたなかったのかもしれません。

【窪田】でもそれをブレークスルーされたんですね。うまく回りはじめてみれば、むしろお互いにサステイナブルだし「スポ育」でしっかり収益をあげるからこそチームの強化もできる。一見矛盾している理解しにくい概念ですが、回りだしてみると相乗効果があったということですね。

周りからの説得力ある反発に打ち勝てたのは、事業に対する思い入れと情熱だけではなくて、そこに松崎さんの大きなビジョンがあったからなのでしょうね。

松崎英吾(まつざき・えいご)●1979年生まれ、千葉県松戸市出身。日本ブラインドサッカー協会事務局長。国際基督教大学在学時に、運命的に出会ったブラインドサッカーに衝撃を受け、関わるようになる。大学卒業後は出版社に勤務し、業務と並行してさらに協力し続けていたが、「ブラインドサッカーを通じて社会を変えたい」との想いから、日本視覚障害者サッカー協会(現・日本ブラインドサッカー協会)の事務局長に就任。「サッカーで混ざる」をビジョンに掲げる。また、スポーツに関わる障がい者が社会で力を発揮できていない現状に疑問を抱き、障がい者雇用についても啓発を続けており、サスティナビリティがあり、事業型で非営利という新しい形のスポーツ組織を目指す。2児の父。 >>日本ブラインドサッカー協会 http://www.b-soccer.jp/

窪田 良(くぼた・りょう)●1966年生まれ。アキュセラ創業者であり、会長、社長兼CEO。医師・医学博士。慶應義塾大学医学部卒業後、同大学院に進学。緑内障の原因遺伝子「ミオシリン」を発見する。その後、臨床医として虎の門病院や慶應病院に勤務ののち、2000年より米国ワシントン大学眼科シニアフェローおよび助教授として勤務。02年にシアトルの自宅地下室にてアキュセラを創業。現在は、慶應義塾大学医学部客員教授や全米アジア研究所 (The National Bureau of Asian Research) の理事、G1ベンチャーのアドバイザリー・ボードなども兼務する。著書として『極めるひとほどあきっぽい』がある。Twitterのアカウントは @ryokubota 。 >>アキュセラ・インク http://acucela.jp

(柏野裕美=構成)
【関連記事】
講演で伝えたい「困難を突破するために必要なもの」とは何か
親にも黙っていた飛び級の理由 ~幼少時の恩師対談(後編)
「いい訓練になりますから、宿題忘れの言い訳を何度でも聞きました」 ~幼少時の恩師対談(前編)
「日本人らしさ」と「グローバルリーダー」を両立させたメンターの言葉
イノベーションを起こすための人材採用とリテンション