「沈黙」を武器に出世する管理職
この会社には、沈黙を武器にする、男性の管理職がいた。2002年から2008年まで企画販売部長などを務め、60代前半の今、専務をしている。
部長だった頃、企画会議で、部員たちが案を出す。意にそぐわないものがあると、押し黙る。意見も感想も、一切言わずにじっと黙る。その表情から何かを察知した、30代前半の女性が意見を言い始める。
「まだ、リサーチが甘いような……」
部長は、一転して饒舌になる。「僕も、同じ意見だな。調査が不十分だから……」と、案を却下する。部員たちの自主性を重んじた形式にしようとみせかけるが、実際は自分の思うままにする魂胆だった。
部長は、この女性が「お気に入り」だった。適度に仕事ができて、「完全な、イエス・ウーマン」になるからだ。あらゆることに「イエス」を連発する。部長は、機会あるごとに沈黙をした。怒った表情で黙ると、女性が新婚当初の妻のように気をつかってくれる。
その後、部長は常務、そして今や専務になった。さしたる実績はない。新規事業を始めると息巻いたが、先行投資した分を未だ回収できない。女性は仕事の要領を得ないのに、同世代でいち早く課長になった。
優秀な人は次々と辞めて、こういう人たちが居座る。危機感を持つ者がいたところで、専務になったこの男が黙ると、女性やその部下、後輩たちが徒党を組み、異論を唱える者を孤立させる。
みせかけの和を重んじ、意見を闘わせることをしない。問題が、問題として残ったままとなる。会社は20年以上にわたり、正社員250人で、売り上げが50億前後を推移する。特に20~30代の男性が大量に辞めて、40~50代の女性のほとんどが定年までしがみつく。
こういう会社は、このレベルの役員や管理職たちでもいいのかもしれない。口ぐせは、会社のあり方や近未来をリアルに表している。