グランドスラム優勝には語学力が必須

錦織の著書に「お風呂でPSヴィータちゃっぽん事件」が登場する。ということは、「ちゃっぽん」した以外の日にも日常的に愛用しているということだろう。ゲームで遊んでいたことに文句を言いたいわけではない。

勝負の世界に生きる選手でも息抜きは必要だ。ただ、同じ時間を使ってジョコビッチは確実に「フランス語で優勝スピーチの練習」をしたのかもしれない。

でなければ、全仏の舞台のローラン・ギャロスで毎回大観衆と全世界のテレビカメラを前にフランス語で応答できるはずがない。言い換えると、ジョコビッチは「わざわざフランス語を勉強してまで」全仏オープンで勝ちたいのだ。これが本物の勝利への執念である。

今年、ジョコビッチはラファエル・ナダルというローラン・ギャロス最大の関門を突破した。決勝こそ敗れたが、私はこの男が1、2年のうちに全仏優勝を果たすと確信している。

その意味で、我らが錦織圭にもさらなる外国語習得を強く勧めたい。

自宅がフロリダで、英語は自在に操れるのだから、スペイン語ならそれほど難しくない。そしてメキシコやスペイン、あるいはアルゼンチンでの大会で優勝し、スペイン語で会見に応じられるようになればさらにファンが増え、周囲からの畏敬の念が増すはずだ。無論、ローラン・ギャロス制覇に備えてフランス語でもいい。すでに、第2の外国語習得へ向け勉強を始めているかもしれないが、コミュニケーションできるレベルに達した時、錦織圭は「日本人の英雄」から「世界のアイドル」になるのだ。

私が敬愛してやまない元参議院議員・作家の故今東光大僧正は、船長として全世界を廻ってきた父上から「フレンドシップ」とは単なる「友情」ではないと教わったという。

「フレンドシップというのは、民族が違っても、兄弟のように信じ合い、愛し合い、尊敬し合う、そういう民族、国家を超えた本当の人間の付き合いが出来た時、初めて生れる友情のことだ。大和民族同士が親切にするのは当り前ではないか」(『おお反逆の青春』より)

錦織圭はともかく、一般のビジネスマンがマルチリンガルになるのは困難かもしれない。だが、例えば、バヌアツのサイクロン被災者、ネパールの地震被災者に1000円を寄付することは誰でもできるだろう。その積み重ねが、世界全体に目を向ける視野の広さ、本物の「フレンドシップ」につながるのではないか。

これまで3回にわたりジョコビッチと錦織の違いについて書いてきたが、率直に言って、以上の理由からあと数年はノバク・ジョコビッチの天下が続く、と私は見ている。だが、錦織圭が今後、人間としての器を大きくし、同時に語学力を磨き、いずれグランドスラムの決勝でジョコビッチを下して世界の頂点に立つことを心から願っている。

蛇足だが、『ジョコビッチの生まれ変わる食事』の売上1%は、版元との契約で「ランコ・ポポヴィッチ基金」としてセルビア大使館を通じ、大洪水被災者に贈らせていただくことになっている。ポポとジョコビッチの爪の垢でも煎じて飲みたいと思うのだ。(文中敬称略)

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