私は「渋滞」について20年以上にわたって研究してきた。もともと大学院では水や空気の流れを研究する流体力学を専門の1つにしていたのだが、この分野は歴史が古く、博士論文で新しいものは書けそうになかった。そんなあるとき、車や人も「流れ」だと気づいた。水や空気というのは、よく見るとツブツブである。分子だからだ。そこで、渋滞に数学が使えるのではないかとひらめいた。
そもそも、アイデアのきっかけになったのは、「セルオートマトン」という数学理論である。何も難しくはなく、「0」「1」の2つの数字と、それらを互いに変換させる「ルール」を使って、世の中の現象を表現しようとするものだ。1950年代に米国の数学者フォン・ノイマンが考案した。
セルオートマトンの「セル」とは細胞や小部屋の意味で、「オートマトン」は自動機械のこと。また、数字の1は何かモノがあることを、逆に0は何もないことを示す。図を見てほしい、1つひとつのマス目がセルである。そして、ここでの1は、そのセルの場所に車がいることを示している。つまり、0なら車がいないことになる。
後は、車が実際にどのように動いているか、さまざまな現象を基にコンピュータでシミュレーションを行い、そこからセルオートマトンに相当する「ルール」を導く。そうやって渋滞のメカニズムを解明したのが「渋滞学」なのだ。