私が算数・数学を教えるうえで大事にしていることの1つが、伝える内容を自分自身がしっかり理解しておくということだ。算数・数学の解き方は1つではなく、生徒たちが間違える理由もさまざま。自分自身が本質をきちっと理解していないと、生徒からの質問や迷いにブレなく答え、彼らに理解してもらうことは不可能である。
たとえば、この問題を考えてほしい。「片道12kmのA町とB町の間を、行きは時速6km、帰りは時速4kmで歩いて往復したときの平均の速さを求めよ」。この問いに「4と6の平均だから時速5km」と答える生徒は少なくない。
これは大人でもありうる典型的な間違いで、我々大人は「なぜ間違いなのか」「考え方のどこがおかしいのか」を気づかせ、その本質を理解させなければならない。
そこで私なら、「君たちが求めた数字は『速さの平均』であって、『平均の速さ』とは違うよ」と伝える。こう言われると「えっ、何なに?」と皆さんも気に留めるはず。「『速さの平均』と『平均の速さ』は別なんだ」と、小学校時代に説明された記憶がある人は意外と少ないものなのだ。
このやりとりの後、「平均の速さ」について改めて説明すればよい。必要なのは「往復の距離」と「往復に要した時間」だ。行きが「12÷6」で2時間、帰りは「12÷4」で3時間かかっているわけで、平均の速さは「24÷(2+3)」を計算して「時速4.8km」となる。