他人の価値観にしばられるな

人生の勝利条件は本来、その人の価値観によって決まります。「子供を無事に育て上げ、幸せな家庭を持たせること」が勝利条件だったら、仕事では無理な働き方をせず、出世も収入もそこそこでいいはずです。定年後に庭先で孫たちと遊ぶことができたら、その人は成功者です。他人の価値観でどう見られようと、関係ありません。

ところが、「会社で出世すること」だけが絶対の価値だと思い込んでいたら、円満な家庭を持っても内心の満足がありません。出世に背を向けた自分を「怠け者」だと感じるのは、おそらくはそのせいです。それはもったいないことだと思います。

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「出世しなくていい」が約半数

そもそも無理なこと、適性のないことで努力をしても、結局は勝つことができず、「負けた」という意識だけを引きずってしまいます。

たとえば回転感覚は10歳までに身につくので、大人になってからフィギュアスケート選手を目指してもそれは無理です。そうではなく、自分にできることに絞って能力を伸ばしていくほうが、成功の確率は高まります。私の場合、チームプレーが苦手ですから、子供時代にサッカーなどの球技を選んでいたら、頭角を現すことはできなかったでしょう。

世界にはさまざまな価値基準があるのだということを、まずは知ることが大事です。そして自分なりの勝利条件を定め、その方向へ進んでいくのです。

私は34歳で現役を引退するまで、「足が速い」という価値基準にしばられてきましたが、引退後に出会ったさまざまな業種の人たちは、当然ですが別の価値観を持ち、それぞれが輝いていました。

思っていたよりも世界は広い。業種や国籍、世代の違う人たちと積極的に交流することで、私はそのことを実感しました。ビジネスマンも、もっと「外」に目を向けてはどうでしょうか。

一般社団法人アスリートソサエティ代表理事
為末 大

1978年、広島県生まれ。2001年、05年の世界陸上400mハードルで銅メダル。12年に引退後は、陸上競技の普及などに取り組む。著書『諦める力』(プレジデント社)など。
(久保田正志=構成 大杉和広=撮影)
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