6000万円の準備が必要に!

金融広報中央委員会が運営するサイト「知るぽると」には、退職までにいくら貯めたらいいかの一例として次のような記述がある。

「退職後の生活費を350万円とし、年金の不足分を60万円とすると、20年分で1200万円。これに生活費以外に、予想される出費(自宅のリフォームなど)や予備費(病気や介護、事故に備えるお金)を加えたものが、退職までに準備したい金額になります。予想される出費を生活費の2年分、予備費を生活費の1年分とすると、合計で1050万円。生活費の不足分とあわせて2250万円になります」

この数字が妥当かどうか、フィデリティ退職・投資教育研究所の野尻哲史所長に聞いてみた。

「年間の生活費が350万円で足りるかどうかというのは当然、人それぞれで異なります。また、ここでは20年分の生活費しか算出していませんが、60歳で退職した人は80歳以降の生活費がなくなってしまう。90歳まで生きた場合、どうなるのでしょうか」

実際、退職後にかかる生活費は退職前の生活レベルに比例する。仕事を辞めても簡単には生活レベルを下げることができないからだ。そのため、米国では「退職前の何%の水準で生活できるか」が、退職後の生活費を考えるうえでのベンチマークとなる。これを同研究所は「目標代替率」と呼ぶ。

野尻氏の説明では、総務省家計調査を基に、55~59歳の世帯データと、65歳以上で無職・年金などで年収350万円以上の世帯データを、できるだけ同じ条件になるように調整を加えて計算したところ、退職直前の月収は49万1320円(a)、退職後の必要月収は33万3640円(b)で、目標代替率は68%(b÷a)となった。平成21年民間給与実態統計調査によれば50代後半の平均年収は595万円なので、退職直前の年収をほぼ600万円と仮定すると、その68%の408万円が、平均的な人のケースで退職後に必要な生活費という計算になる。

「高齢になると外出や食事量が減るので、目標代替率68%が退職後ずっと続くのは変だという意見もありますが、逆に年齢が上がれば確実に医療と介護の費用は増えます。夫婦で老人ホームに入るとしたらかなりの費用が必要で、高齢になってもそれほど支出は減らないと予想できます」(野尻氏)