2020年五輪招致活動の最終プレゼンテーションで、「おもてなし」が日本のソフトコンテンツとして、一躍脚光を浴びた。しかし、おもてなしは以前から一部の経済人に注目されていたのだ。

経済成長期は、均質なサービスで不特定多数の新規顧客を獲得し、シェアを拡大すればよかった。しかし、市場が縮小しているいまは、ターゲットを絞ってロイヤルカスタマーを増やし、収益を高めることが求められる。マーケットを奪い合う(競争)のではなく、顧客とともにつくり出す(共創)時代に入った。そのためのCS(顧客満足)の具体的な有効策が、おもてなしにほかならない。

おもてなしは、単なる接客サービスとは違う。相手に心地よく感じてもらうために、相手の状態を察して、それに適した対応をするべく、気配り、創意工夫をすることがおもてなしの本質だ。「まことの心」、すなわち誠心誠意をもって相手に接することともいえる。

また、おもてなしは、もてなす側だけの問題ではない。もてなされた相手も“感動”を体験することがポイントなのだ。もてなす側ともてなされる側の心が双方向で通じないと成立は難しい。企業から顧客への一方的なサービスと異なり、おもてなしは、企業のアクションに顧客が応えることで、両者の絆が深まる。

たとえば、長野県の中央タクシーは長野五輪のとき、地元に迷惑をかけたくないと五輪関係者やマスコミとの専属契約を辞退した。大きな特需を逃すことになったが、その結果、長野県民から絶大な支持を勝ち取り、現在でも好業績をキープしている。

図を拡大
心地よいおもてなしを体験したことによる変化

ところが、CSを追求すると、コストアップを招くと考えられやすいようだ。おもてなしが企業の業績改善に結びつくことを、数値データで“見える化”しなければ、経営者も前向きにはなれないだろう。そこで活躍するのが「フェイバリット・レシオ・インデックス(FRI)」だ。

ブランドに対する顧客の愛着度(ロイヤルティ)を示す指標で、数値が高いほどブランドとの結びつきが高い。これまでの調査によって、FRIの数値が高い企業ほど、業績がよいばかりか、成長性も高いという相関関係も明らかになっている。そして、おもてなしがFRIの向上に有効なことも調査でわかっている。図のように、心地よいおもてなしを受けた顧客のうち、約4分の3がブランドに対する愛着度、信頼度が高まったと回答しているのだ。