生きた教本から学ぶように促す

おもてなしを経営に取り入れようとすれば、おもてなし人材、つまりプロ意識を持って、顧客の期待に本気で応える人材の育成が急務だ。しかし、おもてなしは、まさに一期一会の対応だから、マニュアルによる教育ではおもてなし人材は育たない。

そこで、ぜひおすすめしたいのが、優れたおもてなしができるスタッフに「生きた教本」になってもらうことである。これは日本だけでなく、グローバルでも通用する。実際にこの方法を海外事業で取り入れて大成功しているのが、13年に上海に初めて海外のお店をオープンさせたスーパー銭湯チェーンの極楽湯だ。

現地スタッフはおもてなしをどう体現したらよいのかが、どうしても理解できなかった。そこで日本流のおもてなしの心を持った人を採用し、かれらにおもてなしの教育を施したうえ、「コンシェルジュ」として接客に当たるようにした。すると、そのコンシェルジュの立ち居振る舞いを「生きたお手本」にして、他のスタッフがおもてなしを学び始めた。

一方、顧客の声を収集し、おもてなしのCS効果を管理する仕組みも重要だ。それにはカスタマーサポート部門を活用するとよい。刃物メーカーの貝印は、顧客相談室が「フリートーキング」を開催するなど、顧客との緊密なコミュニケーションを図り、そこから得た情報を経営に反映させている。カスタマーサポート部門は、コストセンターではなく、おもてなし経営の戦略の柱になりえる存在なのだ。

OMOTENASHI代表取締役
濱川 智
(はまかわ・さとし)
1996年から観光バスの運転手として顧客の笑顔を載せて全国を走る。2008年、きずなクラフトを設立し、代表取締役に就任。12年、現社名に変更。
(構成=野澤正毅 撮影=加々美義人)
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